ひとしねま

2022.4.22

チャートの裏側:神髄染み渡り どよめき

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画が終わり、館内に照明が差し込むと、客席からちょっとしたどよめきが起こった。映画の神髄が観客の全身に染み渡り、その素直なリアクションがどよめきに至る。映画の醍醐味(だいごみ)がこれで、めったにあることではない。心地よくなった。いつもと同じ光景と言うべきか。

「名探偵コナンハロウィンの花嫁」である。19億1000万円(3日間)の興行収入は、シリーズ最高成績が狙えるスタートだ。新型コロナウイルス禍以降、一昨年は公開が延期。昨年は緊急事態宣言時と重なった。それが通常上映の今年は、2019年の興行ピーク時に近くなった。

映画はシリーズ中で屈指のできばえと思う。今回、ロシアの犯罪組織と同国の民間組織の暗闘がスリリングだ。この話の展開に緊張感は最高潮となる。往年の刑事ドラマ「太陽にほえろ!」へのオマージュとおぼしき役名や設定、苛烈なアクションにワクワク感が止まらない。

ハードさが増したと言えよう。コナンくんの活躍は申し分ないが、仲間たちや小五郎探偵の出番、軽めのシーンは少なくなった。いわば、リアル「名探偵コナン」だろうか。とにかく、本作が観客に及ぼす衝迫力は尋常ではない。副題の「ハロウィンの花嫁」は名タイトルだ。祝祭空間と麗しい響き。見終わると、ずしんと頭にこびりつく。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)