「哲仁王后~俺がクイーン⁉」

「哲仁王后~俺がクイーン⁉」© STUDIO DRAGON CORPORATION

2024.8.31

爆笑続きで沼ってしまう⁉ シン・ヘソンの演技が時代劇のイメージを覆すドラマ「哲仁王后~俺がクイーン⁉」

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梅山富美子

梅山富美子

韓国ドラマ「哲仁王后(チョルインワンフ)~俺がクイーン⁉」(全20話、2020〜21年)が、U-NEXT他で配信開始された。23年にHuluで独占配信された際には、その年の年間視聴ランキングでアジアドラマ部門1位を獲得する人気ぶりだった本作は、爆笑に次ぐ爆笑で韓国の時代劇のイメージを覆すようなドラマとなっている。

現代の自信家のシェフが、朝鮮時代の女性の体に入り込んでしまう

中国のWebドラマ「太子妃 狂想曲<ラプソディ>~太子妃升職記」を基にした本作は、女たらしで自信家のシェフ、チャン・ボンファン(チェ・ジニョク)が、ひょんなことから婚礼を翌日に控えた朝鮮時代の女性、キム・ソヨン(シン・ヘソン)の体に入り込んでしまうことから物語が展開する。

宮廷で絶大な権力を持つキム族に生まれたソヨンは、王・哲宗(キム・ジョンヒョン)との婚礼を翌日に控えていた。しあわせの絶頂にあるかと思いきや、哲宗はこの婚礼を政略結婚だとみなし、冷たい態度を取るばかり。そんなソヨンの体に入り込んだボンファンは、彼女のつらい立場を全く気にせず、自由奔放で大胆な言動を繰り返し、宮中のセオリーを無視してかき乱していく。

時代劇を盛り上げるのは、激しい権力闘争や複雑に絡み合う愛憎。しかし、ボンファンはそんなことには興味なし。周囲からは自分を見失ったと思われる奇行を繰り返しながら、現代に戻ろうと奔走する。ただし、勝気な性格のため、思わぬ権力争いに巻き込まれようものなら、王であろうと、政治の実権を握る大王大妃であろうと、どんな手段を使ってでも勝とうとする意地汚さを見せることも。さらに、女性に目がないため、男装して妓楼で豪遊し、本来ならば哲宗を巡ってドロドロな関係になるはずの側室のファジン(ソル・イナ)を口説こうとする始末だ。

宮中をかけ回り、時には宮廷の外に飛び出し、我が道をゆくボンファンに哲宗や宮中の人々は振り回されっぱなし。なのに、自由奔放な彼(?)の魅力になぜかみんながハマっていく。

王妃とは思えない言動と、振り回される周囲の描写に笑いが止まらない

韓国で最高視聴率17.4%を記録するヒットの要因となったのは、王妃とは思えない言葉遣いや態度で完全に中身はボンファンと思わせる演技を見せたシン・ヘソンの賜物(たまもの)だろう。中身がボンファンになってからは、王妃としてのおしとやかな姿はほぼ見られず、猪突(ちょとつ)猛進で喜怒哀楽を全開に表現する姿で笑いを誘う。片方の口角を上げて悪すぎる笑顔を見せると、次はどんなことをしてくれるのだろうかと期待せずにはいられなかった。

そして、「愛の不時着」のキム・ジョンヒョンが、周囲には無能と見せかけて、王としての役目を果たそうとする哲宗を熱演。冷たくしていたソヨンの新たな一面(実際には中身がボンファン)に心をひかれ、愛を示すも拒否されても諦めない姿は、かいがいしいものであった。英語を知らない哲宗がボンファンに「ノータッチ」と提案されたときの表情は必見。ボンファンと哲宗が唯一無二の〝ノータッチ〟夫婦としての絆を築いていく姿が不思議な感動を生んだのは、合っていないのに息ぴったりな2人の関係だったからこそ。

現代パートは少ないけれど、ボンファン役のチェ・ジニョクも、わずかなシーンでボンファンというプレーボーイなキャラクターの印象をしっかりと与えていた。チェ・ジニョクといえば、ボンファンとは正反対の、堅物な役をドラマ「Missナイト&Missデイ」で演じたことが記憶に新しい。

また、ソヨンの従兄で彼女に思いを寄せるキム・ビョンインを演じたのは、今年24年上半期にヒットした「私の夫と結婚して」のユ・ジヒョク部長役で注目を浴びたナ・イヌだった。片思いの切なさがあふれた役柄で、心優しい気性を持ちながらも、ソヨンを愛するあまり起こした行動には恐ろしさもあり、その複雑な感情を見事に演じて恋愛のシリアスなパートを一身に担っていた。

ソヨンを支えるチェ尚宮(チャ・チョンファ)もこの作品に欠かせない人物で、とにかくパワフルなボンファンの暴走を止められないコミカルな演技は何度も笑いを引き起こした。ほかにも、王や王族の食事を管理するスラッカン(厨房=ちゅうぼう)で働くマンボク(キム・イングァン)との料理対決は、2人が真剣になればなるほど笑いが止まらず。気軽に笑えてテンポが良く、しかしこれまでにない設定で物語の先が読みにくい。気がつくと、作品の沼に引き込まれてしまうドラマだ。

「哲仁王后~俺がクイーン⁉」はU-NEXT他で配信中

ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。

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