「ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男」より © 2023 Netflix, Inc.

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2024.2.19

オバマ元大統領夫妻プロデュース、裏方に徹した男を通じてワシントン大行進を描いた社会派ドラマ「ラスティン: ワシントンの『あの日』を作った男」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

村山章

村山章

映画好きで知られるオバマ元大統領は、毎年その年のマイベスト映画を発表しては、通好みのセレクションで映画ファンを沸かせている。さらに2018年には妻ミシェルと共に製作会社ハイヤー・グラウンド・プロダクションズを設立、映画作りにも乗り出した。そして同社が手がける3本目の長編劇映画「ラスティン: ワシントンの「あの日」を作った男」では、主演のコールマン・ドミンゴをアカデミー賞候補に送り込んでみせた。
 

裏方に徹することが多かった公民権活動家、バイヤード・ラスティンに光をあてる

「ラスティン」は、1963年の歴史的事件「ワシントン大行進」を描いたもの。公民権運動が盛り上がり、人種差別や人種隔離政策の撤廃を求めて25万人もの人々が首都ワシントンDCに集結。あまりにも有名なマーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の「アイ・ハブ・ア・ドリーム」の演説が行われたのも、この「ワシントン大行進」でのことだった。
 
この演説が行われた場所を、世代によっては、「フォレスト・ガンプ/一期一会」で主人公フォレストがヒッピーになった幼なじみのジェニーと再会した舞台として覚えているかもしれない。
 
当然、キング牧師を筆頭に大行進に関わった多くの有名人が登場したり、名前が出てきたりするのだが、映画がフォーカスしているのはバイヤード・ラスティンという公民権活動家。ラスティンは、キング牧師らに非暴力での闘いを伝え、時には右腕となって公民権運動に貢献した人物だ。「ワシントン大行進」では25万人の抗議集会という一大イベントを取り仕切り、人員の輸送からケータリングまで膨大な実務を指揮して大行進を成功に導いた。
 
それにもかかわらず、ラスティンの名がそこまで知られていないのは、人種差別だけでなく同性愛への差別も激しい時代であり、同性愛者であったラスティンはあえて裏方に徹することが多かったからだという。映画では、エネルギッシュで人を巻き込まずにいられないラスティンの姿を、コールマン・ドミンゴがみごとによみがえらせている。
 

バイヤード・ラスティンの強烈な個性、魅力が映し出されている

ラスティンで特徴的なのが、歯の一部が欠けていること。これはラスティンの人生全体にも関わる大きな要素で、劇中でもニカッと笑うラスティンの表情とセットで非常に印象に残る。ドミンゴは歯に装具を付け、さらにVFX(視覚効果)技術の力を借りて、ラスティンの歯並びを表現したという。
 
役作りの上で衣装やヘアメークが重要なのは当然として、この自然な特殊メークによってドミンゴはもはやラスティンにしか見えず、技術の進歩が地味なところで最大限の効果を発揮している好例だろう。
 
監督は「ラスティン」と同じくNetflixで配信されている「マ・レイニーのブラックボトム」のジョージ・C・ウルフ。「マ・レイニー」は実在のブルースミュージシャンの葛藤から差別問題を描いた音楽映画だったが、本作ではジャズなどの黒人音楽のリズムを生かした編集がさえ渡り、物語のグルーブを盛り上げている。教科書的な映画だと思わず、バイヤード・ラスティンという強烈な個性と温かさを持った人物の魅力を、小気味いいテンポの中に感じていただきたい。
 
「ラスティン:ワシントンの「あの日」を作った男」はNetflixで独占配信中。

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。

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