ひとシネマ1周年記念オンラインイベントに参加した佐藤信介監督

ひとシネマ1周年記念オンラインイベントに参加した佐藤信介監督

2023.3.28

佐藤信介監督が話した日本映画の海外での可能性「日本のユニークさ」は世界に通用する

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

きどみ

きどみ

3月5日(日)に開催された「ひとシネマ」1周年記念イベントにて、「図書館戦争」(2013、15)や「キングダム」(19、22)の大ヒットシリーズの映画監督・佐藤信介さんと、ひとシネマ編集長・勝田友巳が対談。佐藤監督のフィルモグラフィーを振り返りつつ、日本映画の海外での可能性について話を聞いた。
 

脚本の仕事からキャリアをスタート

勝田

佐藤監督は、これまで「図書館戦争」や「キングダム」シリーズなど、数々のヒット作を手掛けてきました。そもそも映画業界に入ろうと思ったきっかけは何でしょうか。
 

佐藤監督

もともと、映画好きな子どもでした。広島県の田舎の映画館で、スティーブン・スピルバーグやジョージ・ルーカスなど、1980年代SF映画全盛期の映画を見て小学校、中学校時代を過ごしていました。明確に映画業界に入りたいと感じたのは、高校1年生の時です。
 
大学は武蔵野美術大学に進み、自主製作の映画作りに励みます。高校生のころは、スピルバーグやルーカスのようなSF作品、あるいはコッポラのような心躍る作品を作りたい気持ちで、映画監督になりたいと思っていましたが、その後、高校、大学で触れた映画の歴史や古今東西の多くの映画の影響を受け、大学では、身の回りの世界を舞台に、日常を描いた映画を作っていました。完成したのが、架空の予備校の学生寮を舞台にした「寮内厳粛」です。本作がぴあフィルムフェスティバル(1994)でグランプリを受賞したのをきっかけに脚本の依頼をいただくようになり、業界に入りました。
 

プロデューサーに直談判して初監督

勝田

脚本の仕事からキャリアをスタートし、どのようにして監督の道に進まれたのでしょう。
 

佐藤監督

20代は依頼いただいた脚本の仕事に没頭します。自主映画で描いてきた世界、そして映画のスタイルというものを伸ばしながら、商業映画を撮ろうとも考えていました。ただその一方で、幼少期に憧れたSF作品や冒険活劇を自分でも撮りたいという思いも忘れられませんでした。また、自主映画では自分の思い通りの作品を作れていたのですが、どうすれば商業的な作品を生み出せるのかが見いだせない日々を送っていました。
 
90年後半〜2000年ごろは、邦画が明日無くなってもおかしくないと業界内でもささやかれていた時期で、業界自体、かなり低迷していたように思います。他人の脚本作は順調に映画化されていくのに、自分の監督作企画の脚本は思うように進まないというジレンマにさいなまれていた20代後半、とにかくあまり「自分の作品」ということにこだわらず、まずは監督作としての映画を1本撮ることに集中しようと考えます。そして監督を務めたのが「LOVE SONG」(01)です。もともと脚本のみの依頼を受けていた企画だったのですが、一瀬隆重プロデューサーに直談判して監督も任せていただきました。「寮内厳粛」や他の自主映画もそうですが、初期の頃は恋愛や青春映画のような、日常を舞台にした作品を監督することが多かったですね。またそのような監督だと目されていました。なので、そういう脚本依頼も多かったです。
 

「対決の映画」を作りたい

勝田

「修羅雪姫」(01)や「GANTZ」(11)など、アクション作品を手掛けるようになった経緯は何でしたか。
 

佐藤監督

「修羅雪姫」は、きっかけとなった作品です。日常的な作品を作り続けてきたわけですが、その一方で、冒険活劇やSF映画を作りたいという思いは常に心の奥にありました。でも、日本映画では無理、そして今関わっている作品から、そのような作品へのつながりも見えてきませんでした。「面白い映画を作りたい」という漠然とした言葉では、プロデューサーを動かすことなどできませんでした。アドベンチャー映画、SF映画など、どういう言葉を使っても、「そんなのは無理」と言われるのが関の山でした。そんな中で、ちょっと思いついた言葉がありました。「アクション映画」という言葉です。自分が作りたい心躍るような映画はアドベンチャー、SF映画、サスペンス、さまざまあります。でもその中に大なり小なり、アクション的な要素は必ず入り込んでいます。そこで、ひとつのきっかけとして、アドベンチャーでもサスペンスでもなく「アクション」という言葉に着目して、プレゼンしてみることにしたわけです。「僕はアクション映画を作りたいです」と。だからといって、香港的なアクション映画を撮りたいと思っていたわけではありませんが、「対決の映画」を作りたいと一回決めて、進もうと思ったのです。プロデューサーも、これにはぴんと来たようでした。アクション映画。つまり、「対決の映画」。ある者とある者が戦う映画を撮りたいと。              この主張を展開したところ、一瀬さんと思いが一致し、再び作ることになったのが釈由美子さん、伊藤英明さん主演のSFアクション映画、「修羅雪姫」だったわけです。当時は「アクション」という言葉がやや新鮮でした。日本には黒澤明監督や三隅研次監督が手掛けた正統アクションの系譜となる作品が多くあります。ところが、日本刀で人を斬ると、間があって崩れ落ちる、といったような日本刀アクションの独特のスタイルが、現代の映画ではあまり出てきていませんでした。こういった日本独自のアクションのスタイルや、刀というものをもっと現代劇やSF映画に生かすべきだということを主張して、「修羅雪姫」の製作に励みました。
 
「修羅雪姫」での大きな試みの一つは、一瀬さんのアイデアで、香港のアクションチームにアクション監督の協力をお願いしたことです。ドニー・イェンさんにアクション監督をお願いし、谷垣健治さん(のちに「るろうに剣心」のアクション監督を担当)にも日本側のアクションコーディネーターを担当していただきました。面白かったですね。低予算ながら、ある独特のSF的な世界観を表現したくて、今まで秘めていた思いをとことん込めた作品でした。自分の中のマグマがはじけたようでした。
 
「GANTZ」は、実写化すると発表された当初、周りから「無理だよ」「どうやって撮るんだ」と言われていました。ですが自分には、「修羅雪姫」の後に監督したSF映画「COSMIC RESCUE」(03)などさまざまな現場や、映画作りと並行して行っていたゲームのCGムービー製作の知見を得た結果、ある勝算がありました。無理だと言われれば言われるほど、できる気しかしなかったです。
 

創意工夫のたまもの

勝田

その後に監督を務めた「図書館戦争」では、図書館での銃撃戦が印象的でした。
 

佐藤監督

「図書館で銃撃戦」なんて、普通は怒られますよね(笑)。日本各地の図書館を調べると魅力的な建築物がたくさんあって、ここで戦ったら面白そうだなという思いを、あらゆる工夫を施して実現させました。本物の本は保護するため全て移動させ、セット用の本だけを書架に並べたり、壁に銃弾が直撃したように見せるため、オリジナルのシールを開発したり。    「本物のように見せる」手仕事は、美術部の斎藤岩男さんと考え出した、創意工夫のたまものです。こうして生きた図書館を使わせていただいたことで、より世界観がリアルに出来上がりました。ロケを加工して、CGでも味付けをし、リアルな世界に見せる手法が生きた撮影でした。
 

勝田

2019年からは「キングダム」シリーズを手掛け、日本映画の可能性を広げましたね。
 

佐藤監督

「キングダム」は、360度CGで異世界を生み出す必要があるため、最初は実写化は難しいと感じていました。ですが、「BLEACH」(18)の戦闘シーンを駅前広場で行うというシーンを撮った時、駅前広場の建物を全てCGで製作するということをして、手応えを感じました。そこで培った技術力を駆使すれば成功するのではないかと感じ、依頼を引き受けました。 
 
©原泰久/集英社 ©2022 映画「キングダム」製作委員会  
 
「キングダム」は中国の歴史を描きつつも、ファンタジー色の入った冒険活劇です。中途半端な作品にしないためにも、中国でも撮影を行い、現地スタッフとも協業しました。    
 

今までも心の中では海外の方にも届いてほしいと思いながら作っていた

勝田

最近ではNetflixオリジナルドラマ「今際の国のアリス」のSeason2が配信され、より世界に向けた作品を生み出している印象です。製作にあたって変わったことはありますか?
 

佐藤監督

企画の最初から世界を視野に入れた打ち合わせができたのが大きな違いですね。これまで自分が携わった作品は、どれも日本のマーケットで、日本人向けに作ることが前提でした。心の中では海外の方にも届いてほしいと思いながら、どんな観客が、どの国で見ても面白いと感じる映画を目指して作っていました。ただ、それを打ち合わせなどで口にすることはあまりありませんでした。やはり、日本マーケットに向かって作る映画ということで、そこにみんなの主眼があったからです。ただ、脚本や、撮影など、映画作りの時、その思いを忘れることは一度もありませんでした。それがアリスの時、Netflixのチームとの打ち合わせでは「やっとこの件について、真剣に話せた」感がありましたね。
    

アメリカや韓国の作品と張り合うことができた

勝田

「今際の国のアリス」はハリウッド映画のようなスケールの作品でしたので、予算は日本の規模感では難しかったのではないでしょうか。
 

佐藤監督

「今際の国のアリス」は、日本のドラマとしては破格の予算が充てられていました。映画として考えても、以前は限界値と考えられていた予算感以上の金額でした。今までと大きな違いは、作品を出すマーケットです。190カ国以上の人々が見ているNetflixに作品を出すことは、世界と競い合うことを意味しています。我々にとっては大きな予算ですが、世界から見ると普通のライン。そして重要なのは、結果です。予算が潤沢な分、より良い、まさに世界の誰が見ても面白いと思える作品を作らなければなりません。予算があるようでもやらなければならないことは多くあります。なので、スタンスは常にいつもと同じ、どれだけ切り詰めて、どれだけ工夫して、予算の限界いっぱいの映像世界を作り出せるかが問われていました。「今際の国のアリス」の現場でも、これまで自分が培ってきた経験が役に立ちました。
 
結果として、配信当初は世界ランキング4位まで上がることができたのでうれしかったですね。シーズン2では世界ランキング3位まで到達できました。今まで手の届かない存在だと思っていたアメリカや韓国の作品と張り合うことができたので、新たなマーケットでの戦いが始まったと感じています。日本もどんどん面白い作品を撮っていかなければならないと思いますね。
 

日本映画のユニークさ

勝田

今後の日本映画は、「今際の国のアリス」並みの予算で製作しなければ海外作品と渡り合えないのでしょうか。
 

佐藤監督

「今際の国のアリス」は、あくまで一例です。あれはそういう世界観の物語だったので予算がかかりましたが、もちろん、予算あるなしは、あまり関係ないと思います。日本人には、他の国の作品では見られないような作品を作るユニークさがあると思うんです。以前、とある短編映画際に審査員として参加した時、世界中の作品と見比べて感じました。そのユニークな面がもっと外に出ていくのが理想です。実際、アニメやゲームの分野では日本の作品は世界に出て、定着していますよね。実写映画も、小津、溝口、黒澤、成瀬など、名だたる名匠も、またそればかりでなく、ゴジラやウルトラマンなど、独特のSF作品も世界で評価され浸透しています。世界の映画祭でも日本映画の存在感は大きいです。日本のユニークさを出しつつ、技術や届け方を工夫すれば、十分これからもさまざまなジャンルの作品が、世界に出ていくことはできるのではないかと思います。
 
そして最近の傾向として、日本の自治体が撮影に協力的です。以前は撮影が難しかったカットでも、今は撮影を許可してもらえたり、道路を規制してもらえたりできます。結果として素晴らしいシーンが生まれるので、それを見た海外の方に日本に興味を持ってもらえるかもしれません。作品と国双方にいい影響を与えると思うので、こうした取り組みは続いてほしいですね。
 

決められたルールの下で動いても、作品のクオリティーには影響しない

勝田

最後に、昨今問題となっている日本の映画業界の働き方についての質問です。Netflixの現場と日本の現場でギャップはありましたか?
 

佐藤監督

これまでの作品は、なるべく時間内に終わらせたいと思いつつも、撮影が深夜まで延びてしまったり、徹夜が続いてしまったりする日があり、「しんどい」と感じる時も多々ありました。
 
一方でNetflixの現場では1日10時間までしか働いてはいけないというルールがあり、みんななるべくこれを守って動いていましたね。また、作品に参加する監督やプロデューサー、役者、技師も含めたスタッフ全員が2時間「リスペクト講習」を受けなければなりません。リスペクト講習とは、パワハラやセクハラにつながる行為や発言を学ぶ場です。日ごろ現場で使っていたふとした言葉や行為が人を傷つけていないか、みんなで確認し合う時間になっています。         
 
決められたルールの下で動いても、作品のクオリティーには影響しません。こうした精神の健全性は、むしろクオリティーにも良い影響をもたらすと僕は思っています。この傾向はどんどん他の現場にも波及していき、みんなが働きやすい業界へと改善できたら良いですね。人材不足が課題となっている業界ですから、新しいクリエーターにたくさん入ってきてもらいたいです。
 
佐藤さんが監督を務める「キングダム」シリーズ最新作「キングダム 運命の炎」は今夏・7月28日(金)公開予定。1作目の「キングダム」、2作目の「キングダム2 遥かなる大地へ」はストリーミング配信で鑑賞できる。

ⓒ原泰久/集英社 ⓒ2023映画「キングダム」製作委員会

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ライター
きどみ

きどみ

きどみ 1998年、横浜生まれ。文学部英文学科を卒業後、アニメーション制作会社で制作進行職として働く。現在は女性向けのライフスタイル系Webメディアで編集者として働きつつ、個人でライターとしても活動。映画やアニメのコラムを中心に執筆している。「わくわくする」文章を目指し、日々奮闘中。好きな映画作品は「ニュー・シネマ・パラダイス」。
 

カメラマン
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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