「レザボア・ドッグス」より © 1991 Dog Eat Dog Productions, Inc. All Rights Reserved.

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2024.1.09

歴史に刻まれた鬼才のデビュー作 強盗シーンなき強盗団映画の傑作「レザボア・ドッグス」 

映画を愛し、さまざまな映画を見ながら脚本家・監督として活動してきたクエンティン・タランティーノ監督。原点といえる監督デビュー作「レザボア・ドッグス デジタルリマスター版」の公開に合わせ、「レザボア・ドッグス デジタルリマスター版」の魅力やタランティーノ監督のキャリアを紹介します。

高橋諭治

高橋諭治

クライムスリラーのジャンルにおいて〝盗み〟を題材にした犯罪ものは、ケイパー映画、もしくはハイスト映画などと呼ばれる。とりわけその道のプロフェッショナルたちがチームを結成し、一獲千金の大仕事に挑むという筋立ての強盗団映画には良作が多い。「アスファルト・ジャングル」(1950年)、「オーシャンと十一人の仲間」(60年)、「ホット・ロック」(71年)、「ヒート」(95年)。
 
今世紀になってからも「オーシャンと十一人の仲間」を豪華キャストでリメークした「オーシャンズ」シリーズ(2001~07年)が人気を博し、SF仕立ての「インセプション」(10年)のようなユニークな強盗団ものが作られた。
 


色で呼び合う8人の怪しい男たち

おっと、何か重要な作品が抜けていないか。そう、本記事のお題である「レザボア・ドッグス」(91年)も忘れてはならないこのジャンルの傑作だ。ところが若き日のクエンティン・タランティーノが放ったこのバイオレントな監督デビュー作は、とびきり異色の強盗団映画でもある。なぜなら宝石店襲撃計画のために集った男たちの思いがけない運命を描いたこの作品、何と肝心の強盗シーンがどこにも見当たらないのである。
 
本作はいかつい顔をした8人の男が、庶民的なレストランの丸いテーブルを囲んでいるシーンから始まる。そのメンツは宝石店襲撃のために集められた6人の犯罪者と、計画の立案者であるボスのジョー(ローレンス・ティアニー)と息子のエディ(クリストファー・ペン)。
 
しかし彼らが交わす話題は、これから実行しようとしている犯罪についてではない。マドンナのヒット曲「ライク・ア・ヴァージン」の歌詞をめぐる解釈とか、ウエートレスにはチップを支払うべきなのかとか、一見どうでもよさそうな無駄話が長々と描かれている。
 
加えて、寄せ集めのチームである彼らは、全員が素性を明かさないという約束事のもと、それぞれに匿名化した〝色〟が割り当てられている。ミスター・ホワイト(ハーベイ・カイテル)、オレンジ(ティム・ロス)、ピンク(スティーブ・ブシェミ)、ブロンド(マイケル・マドセン)、ブラウン(タランティーノ)、ブルー(エディ・バンカー)といった具合だ。
 

性格示す ムダじゃないムダ話

周知の通り、プロットからの逸脱などお構いなしにくせ者ぞろいの登場人物たちが交わすエキセントリックな会話シーンは、タランティーノの作風を特徴づける代表的な要素のひとつ。面白いのは、犯罪のスリルとはかけ離れた上記の冒頭シーンの会話が、登場人物の性格付けを巧みに表していることだ。
 
例えば、自らの「チップを支払わない主義」を得意げに説明するミスター・ピンクは、犯罪のプロだという自負心は強いが、皮肉やイチャモンを連発するため誰からも信用されない。一方、人生経験も犯罪の場数も豊富なベテランのミスター・ホワイトは、道徳的に正しいことを尊重する男だ。こうしたキャラクター設定は、その後のストーリー展開において重要な意味を持つ。
 
ちなみに登場人物が互いを〝色〟で呼ぶアイデアは、4人組の犯罪者による地下鉄ジャック事件を描いたジョセフ・サージェント監督作品「サブウェイ・パニック」(74年)から拝借したもの。80年代半ばにカリフォルニア州のビデオレンタル店で働きながら、膨大な量の映画の知識を蓄えたタランティーノは、お気に入りのギャング映画、香港ノワール、深作欣二の仁侠(にんきょう)映画などにインスパイアされたエッセンスをいくつも詰め込んで本作を撮り上げた。
 

作戦失敗後に始まるいがみ合いと疑心暗鬼

冒頭の会話シーンと、6人の犯罪者が黒いスーツ姿で歩き出すスローモーションショットに続き、メインタイトルが流れる。すると次の場面ではすでに宝石店襲撃は大失敗しており、ホワイトが運転する車の後部座席では腹部に銃弾を浴びたオレンジが血まみれでのたうち回っている。そして2人は隠れ家の倉庫へとたどり着き、まもなくピンク、ブロンドもやってくる。ブラウンは逃走中に頭を撃たれて死亡、ブルーは行方不明になった。
 
ここから殺風景な倉庫を舞台にした男たちのいがみ合いのドラマが始まる。計画が破綻した理由は、サイコパスのブロンドが警報に驚いて銃を乱射したせいだ。いや、そもそもどうして警官隊があんなに早く現場に押し寄せてきたのか。ひょっとすると、事前に警察にタレ込んだ裏切り者がいるのではないか……。
 
監督デビューを夢見ていたタランティーノは、20代半ばの頃に「トゥルー・ロマンス」(93年、トニー・スコット監督)、「ナチュラル・ボーン・キラーズ」(94年、オリバー・ストーン監督)の脚本を書いたが、どこの馬の骨だかも知れない若造に大金を出してくれる酔狂なスポンサーはいなかった。そこでタランティーノは、超低予算でも作れる密室劇として「レザボア・ドッグス」を構想。その脚本がローレンス・ベンダーからモンテ・ヘルマン、ハーベイ・カイテルの手に渡り、本作の企画が実現した。
 

米インディペンデント映画史の最重要作

フラッシュバックを多用して視点と時間軸を操ったストーリーテリングの妙も、本作の大きな見どころのひとつだ。通常の犯罪映画なら序盤に据えられるはずの作戦会議のシーンを終盤に配置するなど、意外性に富んだひねりが絶大な効果を発揮。
 
黒澤明の「羅生門」(50年)、スタンリー・キューブリックの「現金に体を張れ」(56年)などの特異な物語の構造に触発されたタランティーノは、本来ならば古めかしくてありふれた強盗もののプロットを換骨奪胎し、オリジナリティーに満ちあふれた刺激的な快作に仕上げた。
 
サンダンス映画祭でのお披露目、カンヌ国際映画祭での大反響を経て、大手映画会社ミラマックスが配給権を獲得した本作は、ジョン・カサベテス監督の「アメリカの影」(59年)以降の米インディペンデント映画史において、最も重要な作品とも語り継がれている。
 
「映画への愛が十分にあれば、いい映画を作ることができる」。これは数あるタランティーノ語録のひとつだが、弱冠28歳のシネフィル青年はこの渾身(こんしん)のデビュー作でまさにそれを証明してみせた。30年ぶりにスクリーンによみがえるデジタルリマスター版は、血の匂いがする途方もないパッションを生々しく伝えてくれるだろう。
 
「レザボア・ドッグス デジタルリマスター版」は全国公開中。

ライター
高橋諭治

高橋諭治

たかはし・ゆじ 純真な少年時代に恐怖映画を見すぎて、人生を踏み外した映画ライター。毎日新聞「シネマの週末」、映画.com、劇場パンフレットなどに寄稿しながら、世界中の謎めいた映画、恐ろしい映画と日々格闘している。
 

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