「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」©Marvel Studios 2023

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」©Marvel Studios 2023

2023.5.14

「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME.3」だけではない体内爆弾 あの人気シリーズ3作目との相似と分岐:勝手に2本立て

毎回、勝手に〝2本立て〟形式で映画を並べてご紹介する。共通項といってもさまざまだが、本連載で作品を結びつけるのは〝ディテール〟である。ある映画を見て、無関係な作品の似ている場面を思い出す──そんな意義のないたのしさを大事にしたい。また、未知の併映作への思いがけぬ熱狂、再見がもたらす新鮮な驚きなど、2本立て特有の幸福な体験を呼び起こしたいという思惑もある。同じ上映に参加する気持ちで、ぜひ組み合わせを試していただけたらうれしい。

髙橋佑弥

髙橋佑弥

われらはチーム=家族なのだから、仲間を救わねばならない――最新第3作「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME.3」が公開されたばかりの、「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー」(GotG)シリーズを貫く骨子はこれだ。



MCU履修不要のシリーズ3作目

長編劇映画に限ってもマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)通算32本目の作品となる本作は、近年のMCU作品が概して〝皆勤者向け〟で排他的になりつつあるなかで、直接的過去作──「GotG」「GotG リミックス」──を除いたいかなる作品群の履修も必須の前提条件としない点で、例外的な作品といっていい。
 
本来、作品を紹介するにあたって、シリーズの変遷や主要人物の背景などを記述しておくのが筋ではあるが、同時に、GotGはそれをやっていてはキリがない作品でもある。なにせ、主人公はひとりではなく複数人なら成る集団(その名前が「GotG」というわけだ)で、作品を経るごとにメンバーが増えるのだから。
 
ゆえに、ひとまずは、銀河を舞台に悪を討つ正義のはぐれものチームの話、くらいに捉えていただければよい。前述の通り本作は、それほど多くの作品の予習を必要としないのだから、予告を見て、食指が動いたならば、取り急ぎ過去2作を見てみていただき、劇場に駆けつけていただければと思う。


「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3」©Marvel Studios 2023

家族を救え 貫く様式

とはいったものの、冒頭で触れたとおり、シリーズの核ははっきりしている。疑似家族的はぐれもの集団が、「われらはチーム=家族なのだから、仲間を救わねばならない」状況になることだ。むろん登場人物の把握にはシリーズ通覧の必要があるのだが、3作のいずれもが、最終的にはこの一点に収束していく。
 
またそれに付随して、本シリーズの主役であるGotGの構成員は、全員がいわく付きの過去を抱えている。そして、これまでの3作のすべての悪役は、主人公たちの訳ありな過去を踏まえた、誰がしかの〝仇(かたき)役〟として設定されてもいる。
 
まず1作目は「家族を殺(あや)めた男」、次いで2作目は「母を殺めた男」、そして3作目は「友たちを殺めた男」……という具合で、いうまでもなく展開には紆余(うよ)曲折あるものの、いずれも復讐(ふくしゅう)が作品を駆動させる推力のひとつとして共通しているとは言えるはずだ。
 
だから、ある意味では、似たような内容を繰り返し描いているといってもいい。これは、引き出しが少ないといっても間違いではないけれど、同時に作家的関心の貫徹、シリーズの様式ということもできる。結局は、捉える側がどう判断するかであり、むしろそうした反復性がないシリーズはまれだ。同作が属するジャンル「スペースオペラ」の映画系譜をさかのぼったとき、無視することのできない代表格「スター・ウォーズ」にしても、ある意味では「似たような内容を繰り返し描いている」といえるだろう。
 
今回、救わねばならない仲間であるチームのひとりは、作品の大部分で昏睡(こんすい)状態にある。詳しくは述べないが、心臓には極小爆弾が仕掛けられており、いつ起爆するともしれない状況なのだ。見積もった猶予は48時間、そのあいだに解除パスコードを手に入れねばならない。
 

「M:i:III」TM & © 2021 PARAMOUNT PICTURES CORPORATION. ALL RIGHTS RESERVED.

「M:i:III」の無情感

と、ここまで見たところで、脳内に、ある映画シリーズ、それも図らずも3作目の作品の記憶が去来したのだった──「M:i:III」(2006年)がそれだ。
 
もはや言わずと知れた有名作だが、「ミッション:インポッシブル」(M:i)シリーズもまた、一言で表すなら様式美の世界ということになる。トム・クルーズ演じるスゴ腕諜報(ちょうほう)員が、孤立無援状態に陥り、所属機関からも追われながら、幾人かの仲間の助けも借りつつ、基本的には自ら体を張って困難な任務を遂行せねばならない──万事、これに当てはまる。
 
「GotG VOLUME.3」を見て、本作を思い浮かべたのは、世にも珍しい(?)体内爆弾映画だから。新米諜報員が脳内に埋め込まれた──鼻孔から射出して入れるそうである──極小爆弾の起爆で、特段の外傷もなく突然プツンと事切れるという忘れがたい場面が開幕早々にあるのだ。
 
この新米諜報員は、そのとき敵の捕虜となっており、主人公トム・クルーズがなんとか救出した直後に、前述のように音も立てずに死ぬ。「頭の中で音がする、聞こえないの? 誰か止めて、痛い、痛い、痛い……」プツリ。せっかく助け出したとて、頭の中に時限爆弾が仕掛けられていたのでは手の打ちようもない。この無情感がすさまじい。
 
作り手からしても、このすこぶる印象的な殺法を、たった一度で使い捨てにするわけがなく、本作の敵は、終盤でも切り札として再び体内爆弾を用いることになる。
 

猶予は48時間

大切な人が死に瀕(ひん)している。猶予は48時間。それまでに、あるものを入手せねばならない……という状況は、「M:i:III」にも登場する。
 
こちらで窮地に陥っているのは主人公の妻だ。敵に捕らわれ、人質に取られた。すでに冒頭部で捕らわれの人物が非業の最期を遂げたのを見届けているわれわれ観客/主人公は、最悪の結末を予期せざるをえないわけで、強烈な開幕が後から改めて効いてくる展開の工夫がうまい。そしてだからこそ、主人公の切迫、焦燥、無我夢中、満身創痍(そうい)が、説得力を持った感動的なものとなる。


最後の最後にある分岐点

野暮を承知で明かしてしまおう。なんといっても、これでもかと引っ張った揚げ句の後半の見せ場=クライマックスなのだから、わざわざはしごを外すようなことはしないのが元より定石、いまさら驚くにはあたらない──すなわち、「GotG VOLUME.3」も「M:i:III」も、48時間の危機にあった者は無事生還する。
 
そして、黒幕に復讐する権利を手にするのは、ほかでもないその生還者である。昏睡(こんすい)から醒めたアライグマ(チームの一員ではあるので、あえて〝主役〟をひとりに限定するなら、ではあるのだが)と、人質状態を脱した妻(前述の「終盤に用いられる体内爆弾」が彼女に対してではない、という展開のひねりがさえている)──どちらも、いわゆる主人公ではない。けれど、その瞬間は、この人物が映画の前面に躍り出る。自ら借りを返すのだ。
 
このあと、どうなるか? 奇妙に似通っていると説明してきたこの2作、じつはこの段に至って、最後の最後で分岐することになる。2通りの決断、どちらも至極まっとうで腑(ふ)に落ちるものだ。
 
しかしどちらの作品も、不思議なことに終幕の瞬間は再び共鳴を見せる。後日、この人物が画面へと向かってくる姿である。楽しげで、きわめてすがすがしいラストショットだ。両作ともに、アクション満載の大作映画だが、この終わり方ひとつとっても、家族の構築が主題になっているのが分かるだろう。
 
重なりあうふたつのシリーズ3作目、ぜひ併せ見ていただきたい。
 
「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー VOLUME.3」は全国公開中。
「M:i:III」はU-NEXTで配信中。

ライター
髙橋佑弥

髙橋佑弥

たかはし・ゆうや 1997年生。映画文筆。「SFマガジン」「映画秘宝」(および「別冊映画秘宝」)「キネマ旬報」などに寄稿。ときどき映画本書評も。「ザ・シネマメンバーズ」webサイトにて「映画の思考徘徊」連載中。共著「『百合映画』完全ガイド」(星海社新書)。嫌いなものは逆張り。

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