国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。
2023.7.24
その活躍を知って! 日本映画躍進の裏で奔走する、影の主役たち
「Is everyone there? (みんないるかな?)」
「As you can see, buddy. (ご覧のとおりだよ、バディー)」
日本時間の今年(2023年)6月11日未明、久しぶりにロンドン、ベルリン、マドリード、シドニー、ニューヨーク、そしてアトランタにいる友達のみんなが集まった。一時期、ニューヨークのシェアハウスで一緒に暮らしていた友達。オーストラリア以外は夏が始まっているため、各自の席にはPB&Jの代わりに缶ビールが置かれている。
「PB&Jとは何だろうか」と思った方もいらっしゃるでしょう。すみません、これから説明します。2枚の食パンの片面にピーナツバターとジャムを塗って合わせたサンドイッチのことである。一緒に過ごしていた時、みんなは筆者が作るこのメニューが好きだった。特に夜食で大量のPB&Jを作った思い出が忘れられない。
久しぶりにこのメニューが登場したのは、コロナ禍の真っただ中に筆者の誕生日を祝うために行われたリモート食事会だ。というよりも実は、気持ちは20代のままだが、いつのまにかいわゆる「高危険群」と言われる年代(40代末)に仲間入りしてしまったみんなの安否を確認するための集まりだった。みんなが起きている時間を選び、筆者が送ったレシピどおりにそれぞれ食べる分を作って集まった。2020年5月17日の初回リモート食事会では、ニューヨークのピートの体調が悪く(一般的な風邪だったが)、比較的安定した日常を送っていた筆者はなぜかみんなに申し訳ない気持ちになり、涙を流した。今はみんなが笑って振り返る思い出になった話。
〝文化としての邦画〟を世界に広める、和製S.H.I.E.L.D. !?
しかしコロナ禍が沈静化していく局面で、このプライベートすぎるオンライン飲み会のきっかけは、筆者の誕生日ではなく、筆者以外には一面識もないある人々に感謝を表すためのものだった。スーパーヒーローが活躍する世界において平和維持と諜報(ちょうほう)活動を担う架空の組織S.H.I.E.L.D.(我々はみんなS.H.I.E.L.D の活躍を描いたアメリカドラマ「エージェントㆍオブㆍシールド」のファン)を連想させる、独立行政法人の国際交流基金映像事業部(以下「国際交流基金映像事業部」)の皆様。相対的に海外対象の事業が多いため、国内ではあまり知られていないようだが、日本文化に対する関心や愛情を持っている人々にとって、彼らの影響力は文字通り「至大」である。日本文化というスーパーヒーローが世界で活躍できるように、見えないところで尽力するドラマの主人公に違いない。
みんなと国際交流基金映像事業部との出会いは、2020年のオンライン日本映画祭だった。ウェブマガジン「JFF Magazine」を「JFF Plus」としてリニューアル・オープン。「Watch」での「オンライン日本映画祭」の開催に加え、「Read」、「Join」といったコンテンツを通じて日本映画の魅力を発信するために行ったこのプロジェクトは、突然のパンデミックで世界の国際映画祭が混乱に陥っていた絶望の時期だった。
2022年のプログラムを例にあげると、映画ファンだけではなく日本の輝かしい文化遺産や世界のトレンドである「ストーリーテリングの進化」に応じた質の高いドラマに、日本の食文化や生活文化、ハイテクノロジーなど「日本そのもの」に対する総体的な経験を盛り込んだプログラムを編成し、「無料」で配信した。世界的に文化が国家ブランドを決定する時代に、ヒューマニズムあふれる文化芸術交流であり、驚くべき国際貢献である。さらに国家ブランドイメージの上昇が国際ビジネスの展開とも密接な関連性を示す現実を考えればなおさらだ。
作品そのものと関連する驚くべき結果もある。筆者が国際交流基金映像事業部と国際交流基金ソウル事務所の協力で監督インタビューを行い、筆者が役員を務める韓国の映画ウェブマガジン「CoAR」で絶賛した2022年のJFF上映映画「サマーフィルムにのって」は、インターネット普及率99.96%の韓国の若者の間で話題となり、SNSを中心に「輸入業者が動いてほしい」という世論が形成され、韓国公開にまでつながる奇跡が起きた。興行面でも全国63スクリーンで一日最大102回も上映され、関連グッズが売り切れてオンラインで個人取引まで発生する突風までも引き起こした。まだ感染者の隔離やマスク着用も強制されていた韓国での快挙だった。
ミニシアターから世界へ! まだまだ止まらない日本映画
奇跡のオンパレードはここで止まらない。ブロックバスターを中心に、国際的な知名度の上昇効果を狙っているアジア周辺国の映画と差別化される日本映画なりの競争力を武器に、世界にアピールする時期を披露した事例もある。それが「JFF Plus Independent Cinema」である。
日本の映画文化の多様性を支えてきた「ミニシアター」に焦点を当て、日本各地のミニシアター支配人から推薦を受けた日本映画12作品を、全世界に向けて無料ストリーミング配信した革命的プロジェクトである。まるで、ジャズという世界的ジャンルに日本のローカリティーを結合させた文化のジャズ喫茶のように、映画を楽しむ日本人のライフスタイルを新しい文化として再誕生させ、その中で国際競争力を持つミニシアターを世界に知らせた。
実はみんなとのオンライン飲み会も、今年3月15日から6月15日まで続いた世界でたった一つのこの映画祭のクロージングを記念するためだった。無料のイベントをいつまでも続けてほしいというのも厚かましいが、別れが悲しいのは仕方ない。ただし、これで終わりではないと我々は信じていた。一例として、オンライン飲み会のみんなや彼らの知人の日本観光コースで「JFF Plus Independent Cinema」に参加した六つのミニシアターは、ホットスポットになるはず。普通、数十年の蓄積が必要だと言われる文化事業で、極めて効果的な結果なのだ。
「OK, make a toast! (よし、乾杯だ!)」
「To what? (何に?)」
「Agents of JFF Plus!(JFF Plusのエージェントたちに!)」
セレクションの最後の作品である「夜を走る」について胸いっぱいの感想を語ったシドニーのジェイソンの提案で乾杯する瞬間、今年4月に東京・四谷で行われた国際交流基金映像事業部との懇談会が浮び上がった。映画祭を中心とした日韓の事情について筆者の話を傾聴し、単語ひとつも逃さない謙虚と誠実の手本のような姿を見せていた部長の小島聡子氏と、企画役の許斐雅文氏をはじめとする皆様。彼らに対して敬意を込めて申し上げたい。まだ会ったことのない、数多くの人々の新しいヒーローになっていることを。
「サマーフィルムにのって」は各動画配信サービスにてレンタル配信中。