「マスクガール」より © 2023 Netflix, Inc.

「マスクガール」より © 2023 Netflix, Inc.

2023.9.06

コンプレックスを抱えた女性の波瀾万丈な人生が、ルッキズム問題の根深さを思わせる「マスクガール」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

梅山富美子

梅山富美子

韓国発のNetflixシリーズ「マスクガール」が、8月18日から全7話一挙配信されている。Netflixの非英語・テレビ部門でグローバルランキング1位(8月21〜28日)を獲得した本作は、ウェブトゥーン(韓国発祥のWEBマンガ)原作で、顔にコンプレックスがある女性キム・モミの数奇な人生を描いている。
 
(以下、本編の内容に一部触れています)
 


人気者となったライブ配信者「マスクガール」の人生をさまざまな登場人物視点で描く

 主人公のキム・モミは、幼い頃から人前で踊るのが大好きで夢は芸能人になること。しかし、成長するにつれて自身の顔に劣等感を抱くようになり、夢を諦め普通の会社員として平凡でつまらない日々を送る……かと思いきや、マスクで顔を隠したライブ配信者「マスクガール」として人気者となっていく。
 
「マスクガール」は、抜群のスタイルと色っぽいダンスで人々を魅了。ライブ配信で承認欲求を満たすキム・モミだったが、熱狂的なファンによって歯車が大きく狂い出す。殺人、整形、逃亡‥‥‥波瀾(はらん)万丈な彼女の人生が展開し、第1話からは想像のつかない復讐(ふくしゅう)劇、女性同士の熱い友情、親と娘の愛の物語へとつながり、フィナーレへとノンストップで向かっていく。
 
本作は、各話のタイトルが登場人物の名前になっており、キム・モミの同僚チュ・オナムや、チュ・オナムの母親などさまざまな目線からキム・モミが語られる。キム・モミ視点の物語もあるが、まるで「悪女について」を彷彿(ほうふつ)とさせ、キム・モミとは何者なのか、彼女の人生とは何だったのかと想像力がかき立てられる構成になっているのだ。
 

本作を支えるイ・ハンビョル、ナナ、コ・ヒョンジョンら俳優陣の強烈な演技

 狂気と暴力に満ちた本作は、俳優陣の強烈な演技が支えていると言っても過言ではない。主人公のキム・モミを演じたのはイ・ハンビョル、ナナ(AFTERSCHOOL)、コ・ヒョンジョンの3人。
 
三つの時代のキム・モミをそれぞれがすさまじい演技で魅せているが、特に整形前のキム・モミを演じたイ・ハンビョルは、本作がデビュー作とは思えないほどの存在感。好意を寄せていた上司の不倫を目撃して腹いせに社内の人間に言いふらすなど、決して性格がいいとは言えないキム・モミを、どこかとぼけた表情で演じ、憎めないキャラクターに仕上げた。
 
整形後のキム・モミを演じたのは、「恋の始まりは出馬から!?~すべき就職はしないで出師表」「グリッチ -青い閃光の記憶-」などで知られるナナ。過去の秘密を抱え不安がありつつも、新しい人生を送りたいと強気な姿勢のキム・モミを絶妙なバランスで表現。
 
第6話のモノクロのシーンでは、彼女の危うい美しさを際立たせている。さらに、中年になったキム・モミ役は、「善徳女王」や韓国版「女王の教室」で知られるコ・ヒョンジョンが担った。ショートカットでこれまでにない不穏な雰囲気を漂わせ、目に光がない演技は圧巻の一言。
 

ヨム・ヘラン、新たな一面を見せたアン・ジェホンの演技は韓国俳優の層の厚さを示している

 そして、チュ・オナム役のアン・ジェホン、チュ・オナムの母親キム・キョンジャを演じたヨム・ヘランなしに本作を語ることはできないだろう。
 
アン・ジェホン演じるチュ・オナムは、友だちも恋人もおらず、アダルトアニメで性欲を満たし、人形を彼女のように扱う(しかも人形に流ちょうな日本語で語りかける!)人物。ある日、同僚のキム・モミが「マスクガール」だと気づき思いを寄せるようになるが、彼女に夢中になるあまり引き返せないところまで来てしまう。
 
現在37歳のアン・ジェホンは、かつらで薄毛の中年になりきり、ビジュアル面でもリアルを追求。不器用で少し夢見がちなチュ・オナム役で、俳優として新たな一面を見せた。
 
また、「ザ・グローリー ~輝かしき復讐~」「悪霊狩猟団:カウンターズ」シリーズ2が記憶に新しいヨム・ヘランが、行方不明の息子を捜す母親を熱演。最初はパソコンとマウスの使い方さえわからなかったキム・キョンジャが、ありとあらゆる方法でキム・モミを捜し、地獄の果てまで追い詰める。彼女が真剣であればあるほど、息子が人生の全てだとしても「ここまでする?」とツッコミを入れたくなり、その行動が滑稽(こっけい)で恐ろしい。
 
本作は、新人俳優から名バイプレーヤーまで、韓国の俳優の層の厚さを改めて示した作品とも言える。
 
物語は「ありのままの自分を受け入れよう」という説教臭さもなく、淡々とブラックユーモアを交えながらキム・モミの人生をどこか突き放したように描く。それがむしろ後味の悪さを生み、ルッキズムの問題の根深さを痛感させる。人を容姿で判断するのは危険で、誰かを妄信的に心酔するのもまた危ういのだ。
 
「マスクガール」はNetflixで独占配信中

ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。

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