毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.11.04
特選掘り出し!:「劇場版 きのう何食べた?」 温かな日常、疲弊した世に
弁護士の史朗(西島秀俊)は、一緒に暮らす恋人で美容師の賢二(内野聖陽)の誕生日に旅行をプレゼントし、京都へ出かける。観光地でツーショット写真を撮るなどラブラブな時間に夢心地の賢二だったが、普段は人目を気にする史朗が旅行を計画した意図が気になり、急に不安を覚える。
2019年放送の連続ドラマを映画化。「シロさん」「ケンジ」と呼び合うナチュラルな姿は、ドラマ終了後も彼らの日常が続いていたと信じさせてくれる。ブリ大根やリンゴのキャラメル煮など、史朗が作る料理も次々に登場。2人が食卓で向き合って何気ない話をするシーンからは、愛する人とおいしいご飯を食べるだけで幸せというストレートなメッセージが伝わってくる。
物語は、賢二の存在を受け入れつつ複雑な心境を抱く史朗の両親など、同性カップルが直面するであろう現実も描く。だが、史朗と食材を分け合う近所の主婦や賢二の職場の仲間は2人の関係を自然に受け入れている。嫌な人間が登場しない優しい世界観は、コロナ禍で疲弊した今の世を柔らかく包み込んでくれるはずだ。中江和仁監督。2時間。東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほかで上映中。(倉)