ビバリウム  © Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

ビバリウム © Fantastic Films Ltd/Frakas Productions SPRL/Pingpong Film

2021.3.11

特選掘り出し!:ビバリウム 帰れない新居探しの悪夢

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

新居を探すトム(ジェシー・アイゼンバーグ)とジェマ(イモージェン・プーツ)は、ふらりと入った不動産屋に住宅地ヨンダーへ案内された。内覧を終えて帰ろうとすると2人きりになっていて、ヨンダーから出られない。やがて赤ん坊が配達され、箱には「育てたら出られる」と書いてある。

ヨンダーは全く同じ家が建ち並ぶ迷路のようで、人っ子一人いない。子どもは異様な早さで成長し、トムとジェマにまとわりつく。食事時になると神経を逆なでする叫び声を上げる。

登場人物は3人だけ。風景はどこまでも同じ。その単調さを逆手にとって、不気味な雰囲気を増幅させてゆく。ダレそうになると、新たな角を曲がるように目先を変えて、先を読ませない。

やがてトムは庭に穴を掘ることに熱中し、ジェマは成人して毎日出かける子どもの後を付けて、ヨンダーの秘密を探ろうとする。

思わせぶりだが社会批判や人間洞察といった欲までは出さないから深みはないが、最後のオチに至るまで、シュールな悪夢のようなホラー映画である。ロルカン・フィネガン監督。1時間38分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(勝)