すくってごらん  (C)2020映画「すくってごらん」製作委員会(C)大谷紀子/講談社

すくってごらん (C)2020映画「すくってごらん」製作委員会(C)大谷紀子/講談社

2021.3.11

すくってごらん

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

大手メガバンクのエリート行員、香芝誠(尾上松也)は上司への失言で本店から田舎の支店に左遷される。絶望感たっぷりの香芝だったが、金魚すくいの店を営む生駒吉乃(百田夏菜子)に出会い、恋心を抱く。だが、吉乃は追うと金魚のようにすいすいと逃げてしまう。吉乃には秘めた思いを寄せる男がいた。

モノローグと字幕が噴出する出だしはあっけにとられたが、ミュージカルとミュージックビデオを絡み合わせたような奔放さ、色彩感覚を刺激する映像に目を見張った。ストーリーは単純というか、ラストまで全く気にならず。レトロ感のある家や室内と音楽、木を中心にした和の風情と赤と黒の色調に酔いしれる。松也がふわふわ感のなかにも、歌舞伎役者ならではの地に足が着いているはっちゃけぶりで、作品をかき回しつつも締めた。影の主人公でもある金魚や金魚すくいについての考察や葛藤がもう少しあったら、遊び心がもっと華やいだのでは。真壁幸紀監督。1時間32分。

東京・TOHOシネマズ日比谷、大阪・TOHOシネマズ梅田ほか。(鈴)

ここに注目

奈良の自然や古い町並み、金魚を使った幻想的なシーンなど映像の美しさが際立っている。セリフと地続きのように歌が挿入されているので、ミュージカル特有のわざとらしさを感じることなく登場人物の心情が伝わってくる。松也の全力の「顔芸」もスパイスとして楽しめる。(倉)