第96回アカデミー賞授賞式は、3月10日。コロナ禍の影響に加え大規模ストライキにも直撃されながら、2023年は多彩な話題作、意外な問題作が賞レースを賑わせている。さて、オスカー像は誰の手に――。
2024.3.11
「うれしい。オスカー像追加注文しました」 鈴木敏夫プロデューサー 第96回アカデミー賞 長編アニメーション映画賞
第96回アカデミー賞で長編アニメーション映画賞を受賞した「君たちはどう生きるか」(宮崎駿監督)。結果発表直後に、製作したスタジオジブリの鈴木敏夫プロデューサーが東京都小金井市内のスタジオで記者会見。「心の底からうれしい。それ以上、言いようがありません」と喜んだ。
宮崎監督は授賞式に参加せず、スタジオでは関係者らが中継番組を見ながら結果を待った。プレゼンターのアニャ・テイラージョイが「The Boy and the Heron(君たちはどう生きるか)」と発表すると、歓声と拍手が起こった。
「うれしい顔は見せない」宮崎監督
鈴木プロデューサーはオスカー像について、「実はお金を出して注文すれば何個ももらえるのです。さっき、追加注文しました」。会見場に現れるや、集まった多くの報道陣の前で上機嫌に披露。三つのオスカー像は、宮崎監督と自身に一つずつ、もう一つは回覧用という。
近くのアトリエで待機していた宮崎監督とは、電話で話したという。「発表前、宮崎監督は『日本男児としてうれしい顔は見せてはいけない』『おれは(結果を)気にしていない』と言いながら、興奮する気持ちを抑えていたようだった。発表後、電話口では、本当に普通に『よかったです』と話していた。僕が『おめでとうございます』と伝えると、『お互い様です』と」
〝勝因〟を問われ「ただただ、(投票してくれた)映画芸術科学アカデミー協会員に感謝するのみ」とした上で、「今作は、ある種、宮崎駿の旧約聖書の黙示録。だから、実は日本のお客さんよりも、アメリカの方が受け入れられやすいように思っていた」と述べた。かつて米国では、「十戒」や「ベン・ハー」「天地創造」など、聖書をもとにした映画がたくさん作られた。「超大作というと聖書をもとにしていた。その影響は宮崎監督にもあるのではないか。今作は、一番アメリカの影響を色濃く受けた作品だと、僕は思っています」
「作りたいものを作る、1回ぐらいは」
「君たちはどう生きるか」は、2013年に1度、「引退宣言」をした宮崎監督にとって約10年ぶりの大作。「『二度と作らない』と大々的に記者会見をしたことを、宮崎監督はすごく反省していた。(新作を)作りたがっているのは、何となく分かっていたが、知らん顔をしていると、『みっともないのは分かっているけれど、もう1本作りたい』と言ってきた」と明かした。
「いつも、『これが最後だという気持ち』で作っている。今作の製作期間の7年の間にいろいろなことが起きた。果たして、ちゃんと見てもらえるのだろか、受け入れられるのだろうかと、宮崎監督は映画興行が始まる前に、ものすごく気にしていた。生涯、娯楽映画作家であることを貫きたいから、お客さんが来なくなったら引っ込むべきだと、考えていたのではないか」
公開前の宣伝を一切行わないことでも注目された。「今作で宮崎監督はずっとがんばってくれた。だから、最後ぐらいストレスから解放して、静かに興行するのが理想だった。大宣伝を打つ環境に監督を置きたくなかった」。もっとも「一番心配したのは宮崎監督本人」という。「『宣伝しないの』と聞いてきた。でも、自分たちが作りたいものを作ることを、1回ぐらいやってもバチがあたらないじゃないかと考えた」
「今後は短編を」
現在、宮崎監督はジブリ美術館やジブリパークのために、過去作の世界観を凝縮させた「パノラマボックス」を描く作業に取りかかっているという。アカデミー賞受賞を受け、次回作への期待も高まるが、「白紙」状態だという。
「まだ日本でも上映が続いているし、アメリカでも受賞をきっかけに公開館数も増える。中国公開も残っている。それらの興行が終わるまでは、次に行くことは難しい。抱えていることがすべて、頭の中で空っぽになるまで時間がかかるような気がする。その上で、もう1本作りたいということになれば、次の作品にとりかかることになる」
「今作は、準備を含めたら10年近くかかっている。宮崎も僕も疲れたし、かかわったスタッフも疲労が残っている。それをとるのにもう少し時間がかかる」とも述べた。ただ宮崎監督は「いやになっちゃうぐらい元気」だという。「僕の本心を言うと、もう一度、長編映画を作るのは簡単ではない。短編アニメを作ってほしいと本人には話している」
ところで、今回のアカデミー賞では、事前に配信されたライブストリームに登場した宮崎監督に、トレードマークのひげがないことが話題になった。「僕が『気分転換に切ったらどうか』と言った。本人は嫌がっていたが、押さえつけてそっちゃいました」と冗談めかして。「ひげがあると立派そうに見える。それを取っ払うところからスタートすると。本人はそった後は、やたらと鏡を気にするようになりました」