1979年に産声をあげ、45年続く人気シリーズへと成長した「エイリアン」。時代を超えて人々に恐怖を与え続けるSFホラーの最新作にして、第1作の〝その後〟を描く「エイリアン:ロムルス」の公開に合わせて、その歴史を振り返ります。
2024.9.05
原点回帰した「エイリアン:ロムルス」 怖くて懐かしい温故知新
リドリー・スコット監督による「エイリアン」1作目が公開されて45年。スコットが製作に名を連ねる「エイリアン:ロムルス」は、数え方にもよるが正編としては7本目となるシリーズ最新作である。
ダン・オバノン、ウォルター・ヒル、そしてリドリー・スコット
ただし筆者は、リドリー・スコットがシリーズの創造主のように扱われることには疑問がある。確かに1作目はSFとしてもホラーとしても傑作だし、「エイリアン」シリーズだけでなく後の映画に多大な影響を与えた功績は大きい。そのためにはスコットの怜悧(れいり)な視点や独自のビジュアルスタイルが必須だった。
しかし、「エイリアン」のもともとのアイデアは脚本を書いたダン・オバノンのものだし、スコットが関わる以前に「ストリート・オブ・ファイヤー」のウォルター・ヒル監督らが改稿に携わり、あの特徴的なクリーチャーのデザインを生み出したH・R・ギーガーを呼び込んだのもオバノンだった。スコットを過小評価する気はないのだが、スコットはプロジェクトが進められる中で監督を依頼された立場であって、半世紀近く続くシリーズをゼロから生み出したわけではない。
リプリーと異星人の愛憎劇
また「1」と並んで人気の高い「エイリアン2」はジェームズ・キャメロン監督の出世作のひとつで、キャメロンはストイックで密室感の強い1作目とは異なるエモーショナルなアクション映画に仕上げてみせた。「エイリアン3」と「エイリアン4」はなぜか悪(あ)しざまに言われることが多いが、個人的にはどちらも好きな作品。「3」は当時は新人監督だったデビッド・フィンチャーがつらい経験だったと吐露していても、やはり映像の美しさに目をみはるものがあり、後に「アメリ」を撮るフランス人監督ジャンピエール・ジュネが手掛けた「4」の奇想と飛躍にもワクワクさせられた。
つまり「エイリアン」シリーズは、(ハリウッド大作化が進む中で監督たちは苦労しただろうが)才能あふれる監督たちが強烈な作家性を注ぎ込みながら、エレン・リプリー(シガニー・ウィーバー)とエイリアンの奇妙な愛憎劇として発展していったのだ。原作のない映画がシリーズ化されるとき、誰かひとりの強固なビジョンによって継続されることは希有(けう)であり、その紆余(うよ)曲折を味わうこともまたシリーズものの醍醐味(だいごみ)だと思っている。
80年代ほうふつ 手作りレトロ感満載
では「エイリアン:ロムルス」はどうか? 時系列としては「1」と「2」の間に挟まる物語として設定されており、リプリーが登場するわけでもないので、続編というよりスピンオフに近いかもしれない。監督を任されたのは盲目の老人が無双の強さを発揮するスリラー「ドント・ブリーズ」で人気を得たフェデ・アルバレス。アルバレスはプロデューサーを務めたスコットだけでなく「2」のジェームズ・キャメロン監督にも助言を仰ぎ、オールドファンも納得させるテイストとクオリティーを実現させた。
筆者がまんまと引き込まれたのは、「1」から「2」につながる時代であることがひと目で納得させられる、今となってはレトロなデザインを踏襲していたこと。思えば「1」はもう45年前の作品であり、「2」の公開からも38年の歳月が流れている。よって今回の「ロムルス」でも、登場するハイテク機器やモニターや計器類などに1980年代に作られたSF映画であるかのような懐かしさが感じられるのだ。
さらにいえば、極力CGを抑えて物理的な特撮を駆使していることも昔ながらのSFホラー映画の趣を醸している。過去作を追いかけてきた人間にはうれしい原点回帰であり、また若い世代の観客には、最新鋭ながらもアナログ感ただよう表現が新鮮に感じられるのではないか。
リスペクト込め〝伝統芸〟を継承
そしてアルバレス監督は、人間が外惑星に進出した未来の社会構造をきっちりと紹介し、エイリアンがどんな生態を持つモンスターで、どんなプロセスを経て成長していくのかを丁寧に描写している。つまりはいちげんさんを取り残すことがないように配慮された建て付けになっているのである。主人公たちが閉塞(へいそく)した環境から抜け出そうとする若者たちであることも、シリーズを新たに仕切り直そうという明快な意思を感じる部分だ。
独自性という意味では、後退したとは言わないにしても、大きな冒険をするより先人(特にスコットとキャメロン)をリスペクトすることで伝統芸としての「エイリアン」を継承した作品だと思う(実際、随所に過去作へのオマージュがちりばめられている)。そして今後「ロムルス」の続きの物語が語られるならば、また新しいシリーズの可能性が開けていくに違いない。ともかく本作がシリーズ入門編として機能することは間違いなく、温故知新の精神に満ちた最新型「エイリアン」として、老いも若きも楽しんだりビビッたり悲鳴を上げたりしていただきたい。