毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.11.18
この1本:「モスル あるSWAT部隊の戦い」 地獄の決死行が目前に
米国映画としては異例の戦争映画だ。舞台は戦禍を被ったイラク北部の都市モスル。出演者は全員、アラビア語圏にルーツがある俳優たち。「アベンジャーズ」シリーズのジョー&アンソニー・ルッソ兄弟が製作を務め、雑誌「ザ・ニューヨーカー」に載ったルポルタージュを映画化した。
物語の背景は2017年、イラク政府軍などがイスラム過激派組織(ISIS)に支配された街の奪還作戦を繰り広げたモスルの戦い。その1日の出来事に焦点を絞り、秘密のミッションを遂行するSWAT部隊の行動を、新メンバーとして加わった若き警官カーワ(アダム・ベッサ)の目を通して映し出す。
まず、ロケ地のモロッコに再現されたモスルの荒廃ぶりがすさまじい。少数精鋭のSWAT部隊は、破壊され尽くした市街地を慌ただしく移動していく。新入りのカーワは任務の目的を尋ねるが、リーダーである元殺人課刑事のジャーセム少佐(スへール・ダッバーシ)は、なぜかその問いに答えない。カーワの視点に同化した観客は、理由もわからぬまま戦場に引きずり込まれ、一触即発の極限状況を疑似体験することになる。
行く先々で敵の銃撃やドローン攻撃に脅かされる隊員たちは、一人また一人と殉死していく。その一方でジャーセムは避難民の子供を保護し、厳格な父親のような包容力で若い部下たちを束ねる。戦場の非情な現実の中に登場人物それぞれの人間性が繊細に表現され、カーワの不安や成長のドラマも描かれる。
そして迫真の臨場感とリアリズムに貫かれたこの戦争活劇は、前述したミステリーの答えを終幕直前に提示する。なぜ隊員たちは本部の命令を無視し、地獄の決死行に身を投じたのか。温かな情感が流れ出すその結末にも甘ったるさはない。マシュー・マイケル・カーナハン監督。1時間42分。東京・TOHOシネマズシャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)
異論あり
激しい銃撃戦や爆発が相次ぎ、張り詰めた空気が全編を覆う。ぞくぞくする戦争映画の醍醐味(だいごみ)は味わえるが、SWATの目的はラスト直前まで提示されず、次第に破壊と報復ばかりの戦争ごっこを見せられている気になった。しかも、イラクの戦争を主導してきたアメリカの責任や傲慢さにはほとんど触れず、イラクの元警察官によるSWAT部隊とアルカイダから発展したISISの戦闘を、まるで単純な国内紛争のように描いていることに違和感を覚えた。アメリカ人の視点による、ゲーム感覚さえ感じる作りに不快感が拭えなかった。(鈴)
技あり
アカデミー賞撮影賞を取った「アバター」など、幅広くこなすマウロ・フィオーレ撮影監督の仕事。地元警官だけのSWATが、モスルを切り裂くように進む。小型武器だけの色を殺した近接戦を3台のカメラで狙う。途中でイラン特殊部隊に遭い、銃弾とたばこを交換する場面がある。カーワが、捕虜の過激派に自分を裏切った警官時代の相棒を見つけ、隙(すき)を見て刺殺し入り口の階段に向かう。彼の動きより早く、階段に振るカメラがあった。画(え)が乱れ、撮り手が「まずい」と思う一瞬だが、まとまると珍しい狙いとなり、いい出来だった。(渡)