2020年1月27日、尾籠章裕撮影

2020年1月27日、尾籠章裕撮影

2022.12.28

さらなるエネルギーの解放に期待! 俳優・小澤征悦の今と先

国際交流基金が選んだ世界の映画7人の1人である洪氏。海外で日本映画の普及に精力的に活動している同氏に、「芸術性と商業性が調和した世界中の新しい日本映画」のために、日本の映画界が取り組むべき行動を提案してもらいます。

洪相鉉

洪相鉉

「It was a really meaningful experience for me. (私にはとても意味深い経験だった)」
個人的な見解だが、たいてい外国語を話すとき、日本語で話すときと口調やトーンが変わらない人は言語的感覚が優れている場合が多い。映画的には新人監督 ― 全州国際映画祭最優秀アジア映画賞受賞作の「ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩(Ballad)」― だが、人生では筆者が難題に直面するたびに単純明快な解答を示してくれる星野哲也さんの「塾」、東京ㆍ麻布十番の「酒肆ガランス」での初対面で「You were born in California, right? (カリフォルニアで生まれたよね)」と声をかけると、「Right! (そう)」と喜んで答え、続く会話でハリウッドデビューの感想をよどみのない英語で述懐していた同い年の俳優、小澤征悦もその一人だ。
 

意外!? 彼との出会いはアメリカ映画の中 

キッチンに入りマスクに手袋、気さくな雰囲気と対比される丁寧な手さばきで友人のバースデーケーキをセッティングする小澤と談笑しながら、彼のハリウッド進出作を見た日のことを思い出した。今も昨日のことのように生々しい2016年3月。
飛行機が仁川空港に着陸するやいなや出発地での記憶を払い落とすように本を閉じた。著書の遊び紙に「洪相鉉先生。2015年4月1日から2016年3月25日までの駒場でのご活躍をたたえて」という言葉を書いてくださった社会思想史のゼミの市野川容孝先生の優しい声がすでに懐かしくなっているような気がしたからだった。東大から完全に離れてきた瞬間、自分の中でどれほど東大が大切だったのか悟ったアイロニー。
 
空港で受け取った荷物をソウルの家に送り、すぐ車でロサンゼルスㆍビバリーヒルズのロデオドライブの名前から取った狎鷗亭(アックジョン)ロデオ通りのプレミアムㆍシネプレックスで行われていた第5回マリㆍクレールフィルムフェスティバルに向かった。どうせシャンパンぐらいは飲むだろうが、ソウルなら運転代行サービスはいくらでもある。多国籍ファッションマガジンの名前がついていることからも分かるように、規模は小さいがアジアで最も華やかだと言ってもいい映画祭。毎年、釜山国際映画祭のVIPが参加したがるイベントで有名なアジアㆍスターㆍアワード(シャネルㆍスポンサー)と共に、マリㆍクレールが全社的に対応する同行事には、知人のマリㆍクレールCEOの孫基姸(ソンㆍギヨン)氏が第2回のときから招待してくれている。
 
「留学しながら頑張りすぎじゃない? 痩せたね」と笑顔であいさつしてくる孫氏。
「コリアンプレミアの中に洪さんが好きそうな映画がある」とし、「JUKAI -樹海-」(ジェイソンㆍザダ監督)を勧めてきた。ナタリーㆍドーマーが主演女優であることを覚えていた孫氏が、HBOのテレビドラマシリーズの「ゲームㆍオブㆍスローンズ」のマニアである筆者に配慮したものだったが、いざ筆者の目を奪ったのはアメリカ公開最初の週末で1270万ドルの収益を上げ、「スターㆍウォーズ/フォースの覚醒」(JㆍJㆍエイブラムス監督)に次いでボックスオフィス4位を占め、ホラー映画としては異例の実績を持つ同作品のストーリーテリングをリードするガイドの「ミッチ」を演じた日本俳優の彼、小澤だった。俳優はどうしても映画の全般的な雰囲気についていくしかないが、確かに彼の演技はカリフォルニアの広告界の有名クリエーティブディレクターだった監督らしいポップコーンムービーに品格を増していた。

ポテンシャルと努力の融合で魅了する極上の演技 

正直、小澤は以前、何度も筆者を感動させたことがある。原作に対する愛情で製作段階から関心を持っていたNHKスペシャルドラマ「坂の上の雲」で夏目漱石に扮(ふん)した彼は、「リンカーン」(スティーブンㆍスピルバーグ監督)のダニエルㆍデイ=ルイスや「Jㆍエドガー」(クリントㆍイーストウッド監督)のレオナルドㆍディカプリオのように、歴史的人物に対する深い解釈を見せていた。 例えば「誰も口にせぬ者はないが、誰も見たものはない。誰も聞いた事はあるが、誰も遇(あ)った者がない。大和魂はそれ天狗(てんぐ)の類(たぐい)か」と言うシーンを見て、実際の夏目漱石は違う姿だったと思うことができるだろうか。
 
徹底した分析や数え切れないほど繰り返されたはずの練習で成し遂げた極上のリアリズム演技。考えてみれば、これは一夜にして生まれたものではない。
 
流れる水や空気のようにドラマに染み込み、活字で存在した人物に生命力を吹き込む卓越した能力を第28回日本アカデミー賞監督賞に輝いた傑作「隠し剣 鬼の爪」(山田洋次監督)ですでに見せていた。青雲の夢を抱いて江戸に向かうが、貪欲な権力者によって犠牲になる悲運の武士を演じた30歳のとき、役者としてのポテンシャルを確認されていたのだ。
 

もっと世界へ! これからの小澤征悦に望むこと

釜山国際映画祭オープンシネマ部門に出品された最新作「キングダム2 遥かなる大地へ」(佐藤信介監督ㆍ以下「キングダム2」)を欧米から来た友人たちに見せ、全般的な感想を聞きながら「呉慶将軍」を演じた俳優はどうだったかという質問を付け加えた。「速すぎるスピード感を持ったアクションブロックバスターが見逃しかねない安定感(stability)を維持させるのに貢献する他の日本の俳優とは一味違うリアルな演技」という評価だった。それだよ。「キングダム2」が観客と評論の好評を得ているのは、確かに彼の役割があったはず。
 
ただここでもうひとつ彼に願いたいことは、これから本格的に海外活動にチャレンジしてほしいということだ。不幸中の幸いというか、コロナ禍で非対面業務が日常になり、ハリウッドのエージェンシーもズームなどでオーディションを実施しているという。
「洪さん、そろそろ終電の時間です!」
 
筆者の帰宅を心配する店長の綾子さんの切羽詰った声に席を立ち、別れの握手をする際に伝わってきたエネルギーを覚えている。テレビ番組のコメンテーターをする知力を思い浮かべると、実に「文武両道」という言葉を実感させる男、小澤征悦のエネルギー。
「Just moving forward. (前に進むしかない)」と言っていた彼の意志を信じる。きっと偶然訪れたある映画祭で再び彼の出演作を見つけて喜ぶ日が来るだろう。
 

「キングダム2 遥かなる大地へ」
ブルーレイ&DVDセット(通常版)5,280円(税込み)/ブルーレイ&DVDセット プレミアム・エディション 【初回生産限定】8,789円(税込み)
発売・販売元:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
©原泰久/集英社 ©2022 映画「キングダム」製作委員会

ライター
洪相鉉

洪相鉉

ほん・さんひょん 韓国映画専門ウェブメディア「CoAR」運営委員。全州国際映画祭ㆍ富川国際ファンタスティック映画祭アドバイザー、高崎映画祭シニアプロデューサー。TBS主催DigCon6 Asia審査員。政治学と映像芸術学の修士学位を持ち、東京大留学。パリ経済学校と共同プロジェクトを行った清水研究室所属。「CoAR」で連載中の日本映画人インタビューは韓国トップクラスの人気を誇る。

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