内藤絵美撮影

内藤絵美撮影

2023.1.02

インタビュー:佐々木蔵之介 中井貴一と息の合った贋作コンビ「勉強になります」 「噓八百 なにわ夢の陣」

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勝田友巳

勝田友巳

佐々木蔵之介と中井貴一。渋い人気俳優の2人、意外にも本格共演は「噓八百」だけという。骨董(こっとう)品のニセモノ作りを題材としたバディーもののコメディーだ。佐々木蔵之介は「毎回これで終わりやと思ってました」と言うが、地味にヒット。「なにわ夢の陣」はシリーズ3作目だ。

 

関西弁で芝居「やりやすい」

腕はいいのに芽が出ない陶芸家の野田(佐々木)と、目利きだがさえない鑑定士、小池(中井)が、毎回骨董品の贋作(がんさく)を作る羽目になる。大阪が舞台、原作なしのオリジナル脚本で中年男2人が主人公と、今どき珍しい日本映画。
 
毎回怪しげな骨董品が登場し、2人はそのニセモノ作りに取り組むことになる。今回は豊臣秀吉が残したという、名前だけが伝わる幻の器「鳳凰(ほうおう)」。二つの秀吉博覧会が企画され、両陣営とも「鳳凰」を目玉に据えたことから、小池と野田が巻き込まれ翻弄(ほんろう)される。
 
自身は京都で育ったし、中井もルーツは京都。「関西弁のセリフをしゃべれるので、地続きの感じで芝居を作れるのがありがたい。共通語が翻訳劇というわけではないですけど、感情を作って表現する時の繰り出し方、セリフ回しみたいなものは、関西弁の方がやりやすい。関西ノリはかなりありますよ」


「噓八百 なにわ夢の陣」©️「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会

本物の偽物を作る

気楽なコメディーの芯に物作りへの熱い思いがあるのがミソ。「野田は、腕はあるのに普段はさえない。でもこの映画の間だけは、能力以上の力を出すんです」。毎回小池のせいでいやいや贋作に手をつけるものの、本物を超えるニセモノを作ると本気になる。今回も名前以外記録になく、誰も見たことがない「鳳凰」のニセモノをゼロから創作する。
 
「前作までは、だまされたことがきっかけで戦うために作るんですけど、今回は自分が作りたいものを作ることになる。〝秀吉が飲んでいた茶碗(ちゃわん)〟というお題に、やりがいを感じたのかな。野田と小池、偽造の達人たちといつものメンバーがチームになって、思わぬ奇跡が起きる。そんなことが感じられる作品」。登場人物が熱を入れるのは、決してほめられたことではないが、痛快だ。「でも、決してお金と結びつかない。そこがいいところ」
 
中井貴一は実年齢も俳優としても先輩だ。「噓八百」(2018年)で初めて本格共演、第2作「京町ロワイヤル」(20年)、そして本作とタッグを組んできた。「映画、ドラマ、舞台と精力的に活躍されて、いろんなところに感じ入る。現場でのあり方を身近に感じられて勉強になるし、蓄えになっていると思います。3回やって仲良くなっても、べったりするわけではなく、この2年間、サボってなかったか、ちゃんとやってたかと見られる気がします」
 

笑いの仕掛け、はまる喜び

2人ともコメディーへの出演は多く、お手の物。このシリーズでも息がピッタリ。「貴一さんと組めるのは、役者としてありがたい。コメディーは、間合いの取り方とか難しいことが多くて、組んで作るのには目標を定めて前振りから積み上げていく。緊張感もあるんですが、はまった時の喜びがありますね」
 
映画の終わりには、次なる舞台を予想させる一幕も。「いつもこれで終わりやと思ってやってきましたから、もうないんじゃないですか。はかない夢ですよ。でもそういう機運になれば……」とニヤリ。
 
1月6日全国公開。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

内藤絵美

ないとう・えみ 毎日新聞写真部カメラマン