第74回ベルリン国際映画祭で名誉金熊賞を贈られ記者会見するマーティン・スコセッシ監督=ベルリンで2024年2月20日、勝田友巳撮影

第74回ベルリン国際映画祭で名誉金熊賞を贈られ記者会見するマーティン・スコセッシ監督=ベルリンで2024年2月20日、勝田友巳撮影

2024.2.21

「映画は死なない。技術を味方に、一人一人の声を届ける」 マーティン・スコセッシ監督に名誉金熊賞 第74回ベルリン国際映画祭

第74回ベルリン国際映画祭は、2月15~25日に開催。日本映画も数多く上映されます。戦火に囲まれた欧州で、近年ますます政治的色合いを強めているベルリンからの話題を、現地からお届けします。

勝田友巳

勝田友巳

第74回ベルリン国際映画祭は、マーティン・スコセッシ監督に名誉金熊賞を贈った。21日に開かれたスコセッシ監督の記者会見は、開始30分前に満席となり立ち見まで出る大盛況。スコセッシ監督はいつもながらの早口、冗舌で、各国の記者からの珍問奇問を含んだ質問に、時に脱線しながらユーモアを交えて回答。言葉の端々に映画への深い情熱が込められ、集まった記者を感激させた。
 

第74回ベルリン国際映画祭で名誉金熊賞を贈られたマーティン・スコセッシ監督=ロイター

外国映画を通して学んだ

――映画が変容していく中で、映画祭の意味はどこにあると思いますか。
 
映画祭の役割は、常に新しく個性的な作り手の声に耳を傾けること。映画祭は、映画の違う見方をする機会となるし、世界をより身近なものにして、人々がお互いや文化を知るきっかけになる。それはとても大事なことだと思う。
 
――これまで多くの古典映画の修復を手がけてきました。どのような基準で修復をしていますか。
 
1971~73年に、ブライアン・デ・パルマやスティーブン・スピルバーグ、ポール・シュレーダーといった人たちと、小さなグループを作っていたんだ。まだみんな本格的に映画を撮り始める前だった。そこで、あの映画を見たか、自分はこれを見たと言い合っていた。でもフィルムの保存状態はひどかった。
 
昔の芸術映画は魔法のようだ。常に新鮮で発見がある。わたしがサタジット・レイ監督の映画を見たのはテレビの英語の吹き替えで、しかもCM入りだったけれど、それでも素晴らしかった。溝口健二もテレビの吹き替えで、やっぱりCM入りだった。子供の頃、家に本がたくさんあるわけじゃなかったけれど、外国映画を通して多くのことを学んだんだ。ジャングルのような所に住んでいる人も、実は自分と変わらないんだと。映画を見た子供たちが、自分で映画を作らないとしても、彼らの人生が変わるかもしれない。
 
――ご自分を一言で表すと?
 
……ミステリー、かな。
 

批評家の役割は独自の視点を提示すること

――若い映画人から刺激は受けますか。
 
問題は時間で、どの映画を見るか選ばないといけないことだ。日本の新しい監督とか「パスト ライブス/再会」とか「PERFECT DAYS」とか、魅了された。なるべくたくさん見たいと思っているんだけど。
 
――SNSが普及する中で、映画批評はまだ力を持つと思いますか。
 
批評の役割は、独自の視点を提示し、映画や映画作家について考察することだ。最近はサイレント映画も修復されていい状態で見られるようになってきた。欧州映画に比べると、アジアの映画はあまり注目されないけれど、日本にもインドネシアにも香港にも中国にも、映画はたくさんある。若い人たちがどれを見に行ったらいいか、道を示してあげられる。それこそ赤ん坊が一歩ずつ歩くときに背中を支えてあげるように、批評家が助けてあげるべきだと思う。
 
「キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン」のロケハンでオクラホマに行った時のことだ。とある家に行ったら、そこの20歳の息子が「あなたはボイチェフ・イエジー・ハス監督の『砂時計』を配給した人かと聞くんだ。『そうだよ』と答えたよ。彼は『灰とダイヤモンド』が大好きだという。オクラホマのど真ん中でだ。母親は、兄弟で映画が好きで一晩中見てるといっていた。映画はどこにたどりつくか分からないんだ」
 

「すべきだ」でなく「したい」でいい

――自分の映画についても話してくれませんか。名誉賞なんですから。
 
若い頃の野心やエゴはもうなくなった。でも、映画は自由だと思っている。「キング・オブ・コメディ」で、もう何も知る必要はない、自由なんだと気がついた。「レイジング・ブル」や「タクシードライバー」「ラスト・ワルツ」で、全てを自由にしていいと思った。カメラをどこに置くか、何を撮るか、キャラクターが何をするか。物語の語り方も考え直した。
 
幸いなことに、そうした経験を何度もしてきた。「アイリッシュマン」でもね。ちょっと待てよ、ここでカメラを動かしたくないな、カットを割りたくないなとか。普通の映画になってしまうなと。「すべきだ」「しなければ」ではなく、「したい」でいい。自分が何を扱うべきなのか、が芸術なんだ。
 
――映画は大きく変わり、死にかけているように見えますが。
 
いや、そうじゃない。映画は変わり続けている。小さい頃は映画を見たかったら映画館に行かなきゃいけなかった。映画とはこういうものだと思い込んでいたけれど、じつは決まっているわけじゃない。
 
映画は世界の他の場所で何が起きているか知らせてくれるし、歴史や文化を教えてくれる。技術は速いスピードで変わっていくけれど、大事なのはやっぱり個の声だ。TikTokだろうが4時間の映画だろうが、シリーズドラマだろうが、表現はできる。つまり、技術を怖がるべきじゃない。技術に先導されるのではなく、制御して望ましい方向に向けることだ。消費して捨てられるのでなく、一人一人の声を届ける方向に。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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