「ボーイフレンド」

「ボーイフレンド」© 2024 Netflix,Inc.

2024.8.29

「ボーイフレンド」の男たちを全員応援したくなるワケ 日本初!男性恋愛リアリティーショー

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

山田あゆみ

山田あゆみ

日本初の男性同士の恋愛リアリティーショー「ボーイフレンド」がNetflixで独占配信され、大きな話題となっている。海辺の一軒家「Green room」で、9人の男性が理想の恋人を見つけるため、生涯の友と出会うため、約1カ月間共同生活をおくるという内容だ。恋愛リアリティーショーは数あれど、純粋に出演者全員を応援したい!と思える番組は初めてだった。その理由について解説したい。


個性豊か、多様な9人が一軒家で1カ月

参加者は、IT企業勤務ブラジル出身のアラン(29)、大学生のダイ(22)、台湾出身のヘアメークのゲンセイ(34)、飲食店勤務のイクオ(22)、和食料理人のカズト(27)、モデルのリョウタ(28)、アーティストのシュン(23)、韓国出身デザイナーのテホン(34)、ダンサーのユーサク(36)の9人。全員男性が恋愛対象で、それぞれ異なる個性が魅力的なメンバーだ。

9人は協力してコーヒートラックを運営する。制作側から指名された1人がシフトに入り、彼がその日に一緒に働きたい相手を選んで1日を共にする。売り上げの使い道は自由。不定期にある2人きりのデート企画では、互いに行きたいという気持ちが一致した場合のみ、デートが実現する。

バトルより連帯 イベントより人間関係

初日こそ、メンバーたちの間はよそよそしかったものの、食費の使い道について真剣に話し合ったり、カミングアウトに関して意見を交わしたりする間に、彼らの自然な姿が明らかになっていく。恋愛リアリティーショーではあるが、〝恋愛〟に固執しないところが特徴だ。同種の他番組のような「告白」や「卒業」といったイベントはなく、日常の中で生まれる人間関係が最大の見どころなのだ。

リアリティーショーには、個人戦のような空気が流れる場合が多い。周りが恋敵となるので、協力し合うことは必ずしも必要ではないからだ。しかし今回のメンバーの間には、連帯感が生まれる。中でも、第2話のテホンとシュンの会話は印象的だ。シュンに対して「(シュンのように)自信のある人に憧れている。自分自身を愛していると、人にも愛される準備ができているから」とテホンが語る。テホンは、両親にカミングアウトできないままこの番組に参加していた。アイデンティティーに関する悩みを抱えていたのだ。


台無し展開もかえってリアル

驚きだったのは、第7話のゴーカート対決だ。レースで勝ち抜いた1人だけが、特定の相手に何でも一つ、お願いごとができるというルール。勝ち抜いたのは、良いムードになっていたダイとの距離感を測りかねていたシュンだった。それ以前のデートでダイの好意を知り、受け入れたように見えていた。ところがシュンは、思ってもみない行動に出る。視聴者全員が突っ込んだはずだが、普段から気分屋で取り繕うことをしないシュンらしい選択だった。企画としては台無しかもしれないが、メンバーのありのままが映される番組の「狙ってなさ」には好感を抱く。
 
その後、第8話ではダイを傷つけながらも謝るに謝れないでいるシュンに、テホンが「正論は、あとでもいい。相手が傷ついているって分かってるなら、謝るべきだ」と真摯(しんし)なアドバイスをし、シュンの気持ちを動かした。互いの心の痛みや弱さを知っているからこその助言であり、シュンとの信頼関係ができていたからできた会話だ。

恋の行方をはっきりさせるものがスタンダードな中で「ボーイフレンド」は恋愛バトルのような殺伐としたものではなく、共同生活のなかで見られる人同士の関わり合いを映し出す。恋の焦り、コミュニティーでのささいな衝突、似た悩みを持つ者同士で育まれる友情など、さまざまな要素が入り交じる今番組は、泥沼な展開や姑息(こそく)な駆け引きがなく、ピュアで胸を打つリアリティーショーとして希少だ。恋が実らない、恋をしないメンバーの立ち位置も、きちんとある。人生は恋愛が全てではないからこそ、これぞリアルだと感じるのだ。唯一の欠点は、10話では足りなかったということだろう。


同性愛受容進む韓国では3シーズン

多くの恋愛リアリティーショーは男女のカップルが前提だが、韓国では、男性同士の恋愛リアリティーショーも定着しているようだ。「ボクらの恋愛シェアハウス」が2022年から1年に1シーズンずつ、現在までに計3シーズン配信されている。こちらは7泊8日という短期間で共同生活が行われ、1日の終わりには気になる相手に電話をかけ、最終日には告白が必須という構成だ。

ちなみに韓国では、24年7月に同性カップルのパートナーを国民健康保険の被扶養者として認める判決が最高裁判所で下された。対して日本では23年にLGBT理解増進法が成立したものの、状況が一変したとは言い難い。同性愛者への偏見が依然としてある中で、「ボーイフレンド」が広く視聴者に届くことには大きな意味があると言える。


成立カップルのその後もフォロー

「ボーイフレンド」の最終話配信直後にはYouTubeライブが行われ、成立したカップルが現在も交際を続けていることが公表された。彼らのYouTubeチャンネルは開設から5日で登録者数43.1万人、1本の動画再生回数は117万回を超える急成長を見せている。

また、Netflix Japan公式アカウントでは未公開映像も配信され、参加者の意外な一面やアウティングに関する話題など、より深く掘り下げた内容を見ることができる。彼らの発信は、カミングアウトに悩む人や差別や偏見に苦しむ人々に勇気を与えるだろう。

ライター
山田あゆみ

山田あゆみ

やまだ・あゆみ 1988年長崎県出身。2011年関西大政策創造学部卒業。18年からサンドシアター代表として、東京都中野区を拠点に映画と食をテーマにした映画イベントを開催。「カランコエの花」「フランシス・ハ」などを上映。映画サイトCinemarcheにてコラム「山田あゆみのあしたも映画日和」連載。好きな映画ジャンルはヒューマンドラマやラブロマンス映画。映画を見る楽しみや感動をたくさんの人と共有すべく、SNS等で精力的に情報発信中。

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