毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.6.03
チャートの裏側:ディズニーの模索、観客は
先週末、新作3本のうち、「HOKUSAI」「アオラレ」は東京23区内の上映館がなかった。「クルエラ」は1館のみ。前者は、東京都による映画館の休業要請による。後者は、劇場公開と配信が、ほぼ同時期展開の影響だ。休業要請がなくても、大手シネコンは上映を控える。
「クルエラ」に関しては、ミニシアター中心の単館系興行のようだ。先の1館の上映が2回しかなかった。ブランド力の高いディズニー作品である。だが、上映館がほぼない都内の公開形態を考慮しても、地方主体の興行が厳しかった。従来の常識が通用しなくなっている。
ディズニー作品にして、テレビスポット、映画館での予告編などの宣伝展開があっても興行が盛り上がらない。宣伝の総量が劇場と配信双方にまたがり、効果が二分されているのではないか。というより、配信主体の要素が強く、興行へのマイナス面はやはり大きいとみる。
ディズニーは今年、「ラーヤと龍の王国」と「クルエラ」を同時期展開にした。休業が続いた米国の映画館事情もあるが、肝心要の全世界的な配信の成果も外部にはよく分からない。さまざまな試みを繰り返し、一番利益が上がる流通インフラを模索しているのだろう。その過程で、映画の観客が一番置き去りにされている印象をもつ。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)