片渕須直監督と千住明氏 写真提供:コントレール

片渕須直監督と千住明氏 写真提供:コントレール

2023.12.20

「つるばみ色のなぎ子たちへつづく道」の開催を記念して片渕須直監督と千住明氏の対談が実現!

公開映画情報を中心に、映画評、トピックスやキャンペーン、試写会情報などを紹介します。

ひとしねま

ひとシネマ編集部

初のパイロット映像が公開された、現在制作中の片渕須直監督最新作「つるばみ色のなぎ子たち」。この度、その本作とこれまでの片渕監督各作に繋がる主題や創作の原点などを探る上映企画「つるばみ色のなぎ子たちへつづく道」の開催が決定した。
 
場所は新作の舞台となる京都に位置するミニシアター・出町座で、「アリーテ姫」(2001)、「マイマイ新子と千年の魔法」(09)、「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」(19)が、それぞれ一週間限定で「つるばみ色のなぎ子たち」のパイロット映像とともに順次上映される。
 
12月16日(土)企画第1弾の限定上映作品「アリーテ姫」の上映後、出町座の田中誠一氏が進行司会を務め、片渕須直監督、千住明氏(作曲家)が登壇したアフタートークが実施された。片渕須直監督の長編デビュー作として、「アリーテ姫」は主人公プリンセスの自意識の目覚めの描写を通し、ジレンマや抑圧から解放される物語が展開された。そして、枷を打ち破る若き姫の冒険にさらなる壮大な物語性を加えたのは、千住明氏の音楽。その千住明氏は、22年ぶりに片渕監督の制作中の新作「つるばみ色のなぎ子たち」の音楽を再び手掛ける。「アリーテ姫」当初の制作秘話から、「つるばみ色のなぎ子たち」で22年ぶりの再タッグまで、熱いトークが展開された。

MC:先ほど片渕監督の長編第一作目「アリーテ姫」と最新作「つるばみ色のなぎ子たち」のパイロット映像を上映させていただきました。そしてここからは、両作品の監督と音楽を務めていらっしゃる、片渕監督と千住さんのアフタートークに移らせていただきます。まずはお二人ご挨拶をお願いいたします。
 
片渕:片渕です。「アリーテ姫」は23年前の作品ですが、いまでも映画館で上映されるとお客さんが来てくださるということで、映画が現役で生きているという実感を味わうことができて本当にありがたいです。今日はそのときご一緒させていただいた千住さんとお話しさせていただけてとても光栄です。本日はよろしくお願いいたします。
 
千住:千住です。本日はありがとうございます、僕も23年前、映画っていうのはこういうものなんだなと感じた作品でした。映画は、テレビドラマなどと比較すると息が長く、一つの文化として時代を感じさせないものであると思います。今日は本当に楽しみに参りました。よろしくお願いいたします。
 
MC:ありがとうございます。まずは「アリーテ姫」のお話からお伺いします。この作品は、一見とてもファンタジーな映画に見えますが、ファンタジーやアクションが始まらずに進んでいきます。思っていたものと違うという印象も受けますが、けれど心に残って、そして「これは何を描きたかった映画なのだろう」と見た後に反芻したくなる作品でした。これは当時のアニメーションの作品中でもなかなか類を見ない作品だったと思います。片渕監督にとって長編映画の一作目で、千住さんとも初めてのお仕事ですが、企画の立ち上がりから完成までも長い時間がかかっております。一番最初に作られた長編ということで、自分の作家性が固まっていった一面などあるのでしょうか?
 
片渕:この作品は、実は最初は1992年頃の企画で、シナリオを何稿も書いて、初期にはちゃんとアクションもありました(笑)。企画をどう実現するかで難航しまして、本格的にとりかかったのは98年頃になりました。その頃には考え方も変わって来ていて、シナリオも変わっていました。この作品を40歳ごろに作ったことを知人の臨床心理学の人に話すと「そりゃそうだろう」と言われました。そのころになると、それまでに生きてきた自分の生き方がそのあとも通用するのか悩む時期になる。転職する人もいるし、それまでの道のりをもう一度考え直して、新しい形を見つける人もいる。いわゆる〝中年の危機〟という言葉で表される時期なのだと。これは割と普遍的なものらしくて。

「アリーテ姫」の頃に、いろんな人にそのことを聴いていて、千住さんにもお伺いした記憶があります。「アリーテ姫」の主題歌をご担当いただいた大貫妙子さんにもそのことを伺って、大貫さんもそうした年齢のころには歌をやめようかと思った、ということをおっしゃっていました。けれどそこで続けたからこそ、新しい世界が生まれていったんだなと。「アリーテ姫」の脚本を最終的にまとめるとき、自分の中にあるものを全部もう一度片付け直すことになりました。人の心や想像力・空想力などは、途方もない空想を繰り広げるためにも使えるのだろうけど、目の前にいる人の心を思い図るためのものにもなる。千年も昔のことを正しく知ろうとするためにも使える。そうしたことを自分の中に築けて・・・・・・。それが、そのあとの作品にもつながっていくことになっていきました。
 
MC:千住さんはいかがですか?
 
千住:片渕監督に会ったときは、ちょうど40歳ぐらいで自分の思っていたことをやってひと段落して、さぁどうしようかと考えていた時期でした。今その当時を思い出すと、この作品をスケッチしていたときには、父の病室で最後を看取りながら書いてました。そのときに、作品の絵コンテをみせながらこの作品は今からずっと残ると思うんだと思いながら書いたことを覚えています。

「アリーテ姫」は、それまで書いていたものと違って、すべてを任せていただけたことが非常に自分の中で大きな経験です。そしてこの作品でもう一つ思い出すのは、中世のように見えるし、けれど中世を忠実に描くかというとそうではない。ヨーロッパの香りはあるし、どこかは分からないような音楽を追求したことにあります。さらに主題歌についても印象深いものがあります。主題歌「クラスノ・ソンツェ」は歌唱を担当したオリガに詩も書いてもらっています。昔騎士がいて、何を求めて戦ったのかなどの騎士の物語の詩をロシア語で書き下ろしてくれました。「クラスノ・ソンツェ」を担当したオリガはこの作品完成後の14年後に亡くなりました。

また、もう一つの主題歌「金色の翼」という曲を書いています。「クラスノ・ソンツェ」と併せてこの二つのメッセージ性のある曲を、「アリーテ姫」とともに作品の中で生かすには思っていたより、引き算の音楽だったことを思い出しました。それまでエンターテインメントが多かった僕の仕事ですが、片渕監督の仕事は日本人的な美学というか引き算をしていきます。引いて、引いて、引いて、研ぎ澄ませていくような感覚です。これだけ音楽の入っていないアニメーション映画は、当時珍しかったのではないかと思います。1000年を扱っている作品なので、23年なんて一呼吸ぐらいのもので・・・・・・(笑)。監督と再び会ってもその時間を感じてない。そしてこの続きを書くよう気持ちで、次の作品にも挑むつもりです。またそれでいて23年という時間は必要なものだったとも感じています。本日「アリーテ姫」と最後のパイロットフィルムを見てその時間差を感じました。
 
MC:ありがとうございます。片渕監督が面識のない中、千住さんに音楽をご依頼したわけですが、お受けになったきっかけみたいなものは何でしょうか?
 
千住:ちゃんと 〝映画〟ができるなと感じたからでしょうか(笑)。アニメーションということに限らず、映画を同世代の監督と一緒にやりたいと思っていて・・・・・・。それまでにずいぶんアニメはやったけれど、刹那的ではなく残る作品として携わりたいと感じて参加しました。
 
MC:片渕監督が千住さんとのお仕事で印象に残っていることなどはありますか?
 
片渕:作曲家ってどんなにスマートな職業なんだろうと思っていたんです(笑)。けど、映像に合わせながら演奏を収録する作業に立ち会っていて、そのときにこちらから少しだけ変更してほしいとお願いをさせていただいたことがあったんです。すると、千住さんが床に楽譜をパッと広げて、座りこんで、消しゴムをばーってかけて書き直されて・・・・・・。その迫力が本当にすごくて・・・・・・。
そして、そのときにアニメーターと同じ仕事なんだと思ったんです。紙と鉛筆と消しゴムが勝負で、我々と同じだったんだって理解して。音楽での表現もそういうことだったんだと、千住さんのお姿をみて納得したというか理解していった感じがしました。


MC:おぼえてらっしゃいますか?

千住:それはいつものことなので・・・・・・(笑)。最近はコンピュータになったので少し楽になりました。僕は、アシスタントは基本的に使いたくないので1人でやるのでそういう感じになります。1人でやるとワンオペの料理屋みたいな感じで、洗い物しながら料理作るみたいな風になっていきます。けれどそれが、音楽をばらばらにせず、一つの性格づけをして、個性を与える僕の方法の一つになります。うちはワンオペでやってます(笑)。

MC:ありがとうございます。アニメーションの場合は細かく音をずらすずらさないみたいな細かい修正が多いと思うのですが、それは瞬発力でやられるんですか?

片渕:「アリーテ姫」でいうと、滔々とした場面にゆったり音楽を重ねること多かったのでアクションに引っ掛けるのは少なかったです。ですが、今回の「つるばみ色のなぎ子たち」のパイロットの音楽での千住さんのこだわりが本当にすごくて。3分35秒の中で絵に音楽が引っかかっていることがものすごくたくさんあるんですよね。一曲流れてるだけなんですけど、全部がきっかけになって音楽が流れているような。でもこっちが絵を作る間にタイミングがずれちゃっていた。ダビング作業のときに引っかかりを再構築していただいて。本当に申し訳なかったです・・・・・・。

千住:いえいえ(笑)。音って秒速340メートルぐらいなんですよね。つまり340メートル離れると1秒遅れるわけです。すごいゆっくりしていて・・・・・・。光速はもっと早いわけじゃないですか。音って結構鈍感だから、普通の映画の場合はそれまでは早めに音楽聞かせるみたいなテクニックがあって、決して絵にピッタリあっているわけではないんです。「アリーテ姫」のときもそういう映画的な方法をとっています。例えばアリーテが魔法から覚めるきっかけとかは実写の映画のようなタイミングでやっています。
そこから二十年経った今は完全にパーフェクトなシンクロナイゼーションになります。時代の流れからして、絵がクリアになっていることもあって、そこまでやらないとどうしても気になるんですよね。映像がクリアになった分、音楽の合わせもクリアにしていく方法がこれから大切になるのではないかと思います。

MC:ありがとうございます。監督から『アリーテ姫』でオーダーした演出等はあったりするんでしょうか?

片渕:ガット・ギターを主体に、というような具体的なことはありました。実は、音楽の打ち合わせまでは、映画としての編集前でまだカットが繋がっていなくて。自分もどんな映画が出来上がりつつあるか実感がなかったんですね。千住さんにお渡しするために、一部色がついてないものも含めて本編を最初から最後まで編集したのですが、そのときが最初の全カット繋いだ編集だったんですよ。初めて繋がった映画を見て・・・・・・。もちろん、それぞれの場面は自分で仕掛けた手練手管というか演出を施して作っていっていたんですが、繋がったものを見ていて、次第にアリーテという人物の生き方に呑まれていって。途中で二箇所くらい、自分が作ったということを忘れてしまいました。
一つはアリーテの高い塔に押し寄せた騎士たちが去って、1人で彼女が佇むカット。いつの間にかアリーテの心情に自分が呑まれてしまってました。もう一つは、地下牢に閉じ込められたアリーテが、自分の物語を心の中に抱こうとして、城の塔から街を見下ろしていた自分を思い出す。そこに見える人々の姿を見て温かいものが流れるのを思い出すみたいなシーンです。
思えばそういう気持ちの中の大切さみたいなものを、千住さんが音楽として汲んでくださっていました。この映画の音楽として、そういうところがとても大事だったなと思います。自分がそう感じていたのと同じように、映像が伝えてくれていたんだなという感じですね。

千住:この作品には、例えばお祭りのシーンであるとかのSE的な音楽と、心情的な音楽と、魔法などの幾つかのテーマが与えられた音楽があるんですが、こちらの時代背景をどうしようかというところを1番考えたところです。
例えば23年前当時の流行っていた音を使うとこの映画は古くなってしまうんです。だからその時代の最先端は使わない。そこで、まずは中世的な音楽を作りました。これはSE的な最初のお城であるとか街のシーン、騎士たちが帰ってくるところで流れているものです。
あと魔法の不思議なテーマを作りました。そして心情的なテーマは、まず風景的なものに関しては先ほどお話しした主題歌を担当したオリガに書いたテーマがあって、彼女がそれに詩をつけてくれました。
その彼女が詩をつけてくれたものと、詩をつけてないボッカリーゼで聞かせるもの。そして後半になってアリーテ姫が自分を取り戻すときに流れる大貫さんと作った曲。それらでだんだんと性質が変わっていくようになっています。けれどそれを20年前に流行っていた音ではなくて、たぶん普遍的になくならないであろうと思うもの。そして作品の背景の過去かもしれないし未来かもしれないというところのニュアンス。さらにもう一つ、監督から言われたのは中世のヨーロッパのイメージはあるけれども、国を特定したくないようなイメージ(だからロシア語が出てくるわけですが・・・・・・。)。それらで構成される曲を目指しました。そういう意味では言語には迷いましたが、オリガの才能をどうしても生かしたくてお願いしたということになります。

片渕:音に関しては一番最初にどういうふうに千住さんにお話しようかというところでいうと、色々なCDをサンプルに聴いて、その中からクラシックギターのガットの音がとてもこの作品にふさわしい感じで、そこから発想していただけないかということをお話ししたんですよね。

千住:作品の時代的にはリュートの前ですからガットギターはまだ出てきてないんです。またそういう意味ではそれと同時にハープというお話もされていて。ハープも中世は原型のようなものはあったんですが、まだあんなに綺麗な音ではなくて、竪琴の時代なんですね。でもそういうことを考えてやっちゃうと、「つるばみ色のなぎ子たち」もそうですが、博物館というか教科書になってしまう。これは新しく作るものなので全てツールとして受け止めて、一番表現したい音を探して作業をしました。

 
片渕:ガットギターのある種の野太さっていうのは、アリーテって女の子とそぐわないと思うんです。けれど、ただアリーテの内側から出てくるもの、生き方というか、そうしたものを描くとそういう音になるのかなという感じがしていて。僕がそのあと作った映画はどちらかというと主人公の内面にあるものをそのまま音楽にするようにしているんですが、アリーテの場合は客観的に外側から人間を描いた。それを音楽として聞かせていただいたなっていう気がします。
 
千住:ガットはあのあとの弦楽四重奏などにも使われているのですが、なんかそういうふうなところに人間のアナログのいいところがあるというか、そういうことを感じます。反面、魔法が出てきたところなんかはオルゴールっぽくしているんですけれど、あれはもっと硬質なチェレスタで作っています。それはガットとは相対するように金属を叩いているような、音叉を叩いているようなものです。その対比を念頭に置いて、魔法はちょっと冷たいみたいなそういうところを意識しました。

片渕:今ちょっと思い出して懐かしいなと思うのが、街の人たちのが踊る婚礼の曲の声なんか、自分たちで歌ったことですね。

千住:そうそう笑

片渕:拍手とかをうちのスタッフで総動員してやったんですが、若い人たちの拍手がなぜか裏拍になってしまって…。そしたらトークバックで千住さんからそれじゃないですっておっしゃって来て、僕が「こうするんだ」と一同に伝えるみたいな感じになってました。

千住:音楽というのはみんなで作るので映画の現場にすごく近いものだと思うんですよね。そういう意味では非常に手作り感のあるものだったと思います。

片渕:千住さんが打楽器で何か光り物ありませんかっておっしゃられて。そしてその場でキラキラって音が足されてそれが必要だったんだっていうことが分かる。そうやって、その場で出来上がっていく感じがものすごくしました。

千住:そうですね。打楽器にはよくわからない変なものが沢山あって、ほんとになんでもあるんです。それこそ鍋蓋とか持って自分でそれを鳴らしたり、別のもので叩いてみたりとか、そういうところで新しい音を探していくみたいな・・・・・・。石を叩く場合とかもあったりしますね。
 
片渕:オリガさんの曲「クラスノ・ソンツェ」の歌詞はロシアの人に聞かせるとわかんないっていうんですよ。あれは今のロシア語ではない。今はもう使われていない言葉としてあって、それで作詞してくださっているんです。それを知らないロシア人は、これはウクライナ語とかいったりして・・・・・・。彼らからすると意味がわからない。オリガさんがそうした古い言語を知っておられたというのが素晴らしかったんです。何より求めていた古いヨーロッパの雰囲気がありました。

千住:ヨーロッパだけど、どこの国かわからないというところのニュアンスですよね。オリガさんはロシアで音楽教師を志していて、そこから音楽先生の方と知り合って日本に来て、そこからシンガーソングライターになったっていう少し変わった方で・・・・・・。ご主人もイラン人の方なんです。

片渕:で、お互い母国語が違ってお子さんもいるので、しょうがないから家では日本語で喋ってるみたいな(笑)。

千住:だからそういう意味での人類共通の、インターナショナルな意味での想像の世界というか、ヨーロッパなのか、ロシアなのか、中東なのか分からないけれどその匂いを捉えて、分かるっていう世界ですね。時代背景も、みんなわかるんだけど1000年前かなと思いつつずっと先の話のような雰囲気。

MC:ありがとうございます。それでは次に「つるばみ色のなぎ子たち」の話に行こうと思うのですが、23年後にまたタッグを組まれることになった経緯についてお聞かせください。

片渕:なぎ子、つまり清少納言たちが生きている世界を考えてみたとき、ある種、人物たちを外側から見るその視点が必要かなと思ったんです。そのときに思いついたのが、千住さんで、ぜひお願いしたいということでお話ししました。けどお目にかかったら、昨日別れてまた会ったみたいな感じがしましたね。

千住:そうですね、久しぶりな感じが、全然なかったです。

片渕:懐かしいとかそういうふうでは全然なかった(笑)。

千住:僕も本当に自然にお会いできました。お話しいただけて、またこの世界に入れるなって思うと非常にうれしかったです。ものづくりって面白いもので一つ作品を作っている間ってなんか不思議な気というか光線が出ていて夢見てるみたいな感じなんです。それが覚めると覚めちゃったって感じがしちゃうんですが、ああまたあの中に入っていけるんだなって気がしました。なかなか作っている間って辛いこともあるんですけど気持ちがいいんです。あの世界に入っていけると思うとその間の時間は何も気にならないですね。
 
片渕:パイロットにはまだ出てきてないのですが、映画には平安時代の楽器がリアルに演奏されるみたいなことが出てくることも想定しています。そう思ったときに、それを扱える作曲家の方というのは千住さんだと思ったことがあります。それで、一緒に東京芸大の邦楽科に行って、いろいろな楽器の鳴り方や扱い方などを見学させていただくような勉強会をさせていただきました。
 
千住:東京芸大は日本の中でも昔の楽器がたくさんあるし、研究資料もたくさんあります。こうやって弾いてたんじゃないかとか、こうやって音を出してたんじゃないかとか、あるいはチューニングはこうだったんじゃないかとかを調べてそれを・・・・・・、あんまり今言っちゃいけないですね(笑)。
もちろん当時の音楽的なものを扱っていますし、また今回のサウンドは6.1chでミックスをしてましたが、将来的にはもっとマルチ音響になるかもしれませんけど・・・・・・、あんまり詳しいことは言えないですね・・・・・・。これ以上は言えないです(笑)。日本って面白い国で、風通しの文化なので、響きというよりは、方角で音が決まっていることもあって、そういうところも凝って調べています。
 
片渕:当時の楽器の一つに笙の笛というのもがあって、中に唾がたまっちゃうから火にあぶたりしてしょっちゅう乾燥させなきゃいけないらしくて。そういうのも映画で使おうと思ったら、ああ乾燥させなきゃいけないんだ、アニメーションで乾燥させる芝居どうしよう・・・・・・みたいな(笑)。

千住:そうですよね。それずっと持ってたらおかしいですもんね。それは火鉢みたいなものを使っていたのでしょうか?

片渕:だと思いますね。で、それだと街を歩きながら吹けないとかそういう限界があるんだとか、いろいろなことが分かってきています。
 
千住:あとは、実際に音を聞くと音のバランスというところが分かってきます。篳篥が異常にでかいとか。そういう意味で言えば、SE的な音楽ではそういった研究の成果が少し見えるのかなって思ったりします。ただ、「アリーテ姫」とおんなじで、今現在作るものですから、我々が作るエスプリというものも少し入れて行こうかなという感じです。実はパイロットの映像の音楽も最初は雅楽みたいなものを付けていいたんですが・・・・・・、これ以上は言わないほうがいいのか(笑)。
実際にパイロットで僕も作業してみて、よくある歴史ものみたいにドキュメンタリーみたいになってきて、これあんまりおもしろくないかなって思ったんですね。それで監督と、そういう意味では時代を離れちゃっていいのではないかっていうお話になりました。
 
片渕:ヨーロッパの弦を使ってね(笑)。

千住:むしろそういう表現をした方が我々にとって自然ではないかっていうところですよね。

片渕:それで絵と音がかぶさって千住さんと一緒に初めて映像観たときに、「これだったんだ」っておっしゃっていたのをよく覚えています。

千住:ずっと探していたんです。

片渕:パイロットっていうのは本当にパイロット。予告編でも広報映像でもなくて、創作上の水先案内としての意味を持っていて、自分たちがどこに進むのかというのを手探りで探して、あれを作ることによって探り当てていっているんです。
 
千住:そうですね。普段の仕事ではなかなかこういう時間を与えられなくて、こういったクリエイティブなことができない場合が多かったりします。けれど、やはりクリエイティビティというのは、新しいものを発見していく作業だと思います。これは音楽も映画も美術もみんなそうだと思います。
今回は、それを監督と一緒に探しているっていうことですね。皆さんご存じのように、監督の映画はすごく長い時間がかかるんですが、そのほとんどがそういったクリエイティビティあふれる作業です。「アリーテ姫」もそうですが、昔はこうだった、その通りやるのも方法だが、この映画にはどうしたらふさわしいかということを考えていく。そうして、音楽も含めてワークショップをやって作っていけるということが、年も近いこともあって、面白いですし、一番意味があると思います。そうすることで、あとにつづく人にも何か残せるかなという気がしています。
 
片渕:実は、今作っている作品を制作しているのは、コントレールという新しいスタジオなんですね。コントレールというのは飛行機雲のことで、あとに残す、残るというもの意識して名付けたスタジオ名なんです。ロゴマークも後ろに飛行機雲が残っています。
千住さんのおっしゃる通りで、その段階から一致していくみたいな感じがすごくしています。
 
千住:そういう意味では、「アリーテ姫」と同じように完成したまた23年後にこれを見たいという気もしてきますが、そのときには生きているかわからないですよね(笑)。出来上がってもうれしいですけど、また25年後ぐらいに見たいなぁって思います。そういう風な作品にしたいですね。
 
片渕:そうですね(笑)。実は、映画を作る際に、作り手の中でいつまでも僕だけが作っているような気持でずっといるんです。皆さんが離れて行ってしまうんだけれど、監督である僕は最後まで残っていて、寂しいなぁって思う係だったりするんです。でも映画自体が長く生き続けてゆくことで、今日もこうして千住さんとお話しすることもできましたし、また集えるんだなっていう気持ちが出てくるのが本当にありがたいです。「アリーテ姫」を作ったときは、みんなで総がかりで作った感じですごく楽しかったし、お互い刺激にもなりました。
でも気づいたらもう自分しかいないっていうのがいつも監督だったんですが、そうじゃなくてまた次の作品を作るとかそういうのを含めて、いろいろなものが取り戻せるという気がしています。実は「つるばみ色のなぎ子たち」は、かなり今までの作品で関わった人たちの総決算だったりもします。これまでの作品でご一緒してきた人、あの人とやりたかったという人も含めて色々な人に集まってもらって作っていただいてます。
 
千住:あとは、この年になって、60歳を過ぎてからじゃないと、この作品には向かえなかったんだろうなと思います。日本の古典であり、文学であり、しかし歴史であり・・・・・・。あまり若いと自分の中で自信をもって手を付けられない気もして。そう意味ですごく今いい出会いをさせていただいてるなと思います。それと芸大のこともそうですが、そういうブレインが周りにいてくれて自分たちの財産をすべてつぎ込める。この作品だったらそれが必要とされているというところ。そこが良かったなぁって思います。
 
MC:貴重なお話をありがとうございました。
 
片渕監督のこれまでとこれから、そしてそこに加わる千住明氏の作品と創作への思いが熱く語られ、大好評でイベントは幕を閉じた。新作「つるばみ色のなぎ子たち」へとつづく道を確かめた本イベントは、次回は24年4月にて同じく出町座で実施予定。

■特集上映の開催スケジュール
~12月21日(木)
上映作品:「アリーテ姫」
2024年4月 
上映作品:「マイマイ新子と千年の魔法」 ※トークイベント企画中
2024年8月 
上映作品:「この世界の(さらにいくつもの)片隅に」 ※トークイベント企画中

ライター
ひとしねま

ひとシネマ編集部

ひとシネマ編集部

新着記事