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2022.8.17

令和の今、こう見る! 時代&世代を超えるウォン・カーウァイ作品「恋する惑星」

誰になんと言われようと、好きなものは好き。作品、俳優、監督、スタッフ……。ファン、オタクを自認する執筆陣が、映画にまつわる「わたしの推し」と「ワタシのこと」を、熱量高くつづります。

青山波月

青山波月

若いうちに見ておくべき映画を見つくせるタイムリミットは刻々と迫ってくる。
「ああ、この映画を若いときに見ておきたかった。そうしたらまた違うインスピレーションを受けられたかもしれない」。そう思う瞬間が段々と増えていくのだろう。年を重ねるのが怖いような、楽しみなようなジレンマ。
私が映画「恋する惑星」に出会ったのは18歳。見直したのが20歳。
次にこの映画を見るとき、私は何を思うだろうか。
 
8月19日から全国の映画館で順次公開されていく、4Kレストア版のウォン・カーウァイ監督の名作の数々。
この公開に先立ち、私が以前鑑賞して大ハマりした「恋する惑星」を再鑑賞して記事を書かせてもらえることになった。


 

公開当時を知る人も、そうでない若者もとりこ!

Back ground music (BGM) としてではなくまるで主人公のような存在感を示す音楽、残像が残るスピード感のあるカメラワーク、アジア特有の熱帯性を帯びた湿度の高い世界観。
まるで現代のエモい系ロックバンドのMVみたいな映像美だ。
 
これって、何年前の映画なんだろ。filmarksで「恋する惑星」を検索っと。1995年。へー。1995年……?
 
1995年公開って! まじ!?
私が生まれる前の映画だとは信じられない、なんてスタイリッシュな作品。
 
私の親世代の人たちにウォン・カーウァイが好きだと伝えると、返ってくる言葉は必ず
「若いころ、超はやったよ! あのー、あれ、金城武がかっこいいやつ」
「天使の涙?」
「恋する惑星?」
「あんま内容覚えてないけど、音楽と映像は覚えてるよ! サントラ買ったなー」
 
その当時、こんなモダンな映像美の映画が出ちゃったら、そりゃはやるだろうよ。と思いながら、若いうちってちょっと不思議で意味わかんなくて斬新な映画に恋しちゃうんだよなー。という共感。
こうやって映画をとおしてフィーリングを分かち合っているときこそが、世代を映画がつないでいるなと感じる瞬間。
 
最初にウォン・カーウァイ監督の作品を見たとき、今をときめく若手監督、グザビエ・ドランの作品「Mommy」を思い出した。疾走感のある音楽と並走するかのような、スピード感のあるカメラワーク。その後彼のドキュメンタリーを見て、ウォン・カーウァイの作品からインスピレーションを得ていることが多いと知った。その他にも、国籍問わず現役で活躍する監督の中にウォン・カーウァイから影響を受けた人は少なくないだろう。
 
いまだに多くの監督らに憧れられ、同世代のみならず令和を生きる20歳の心をもわしづかみにする作品を作るウォン・カーウァイ。〝色あせない作品〟とは、まさにこのことだと感じた。


 

大好きだったシーンは、ときを経てどう映る!?

私がこの映画を初めて見たのは18歳の夏。
破天荒で刹那(せつな)的で少しエロティックな香港の男女に、18歳・コロナ禍の夏を過ごす私は大層ドキドキした。好きな人の家に潜り込んで、バレないように水槽に魚を足していく少女。私はそのシーンが大好きになり感化され、家の水槽に新しい金魚を足した。次の日、新入り金魚は10年生きている古株金魚に跡形もなく食われていた。すべてが刺激的な思い出だ。
 
私が記事を書くためにこの映画を見直したのが20歳の夏。
5年付き合った彼女に振られた主人公の刑事モウのやるせなさが少しだけわかるようになった。逆に、好きな人の家の水槽に魚を足していく行為の意味を問うようになってしまった。好きな人の所有物に自分の跡を残したいのか。いつ気づかれるかとスリルを楽しんでいるのか。18歳のようにただワクワクした気持ちで一緒にお魚増殖行為を楽しむことはなくなった。
 
モウは5年付き合った彼女と別れて途方に暮れていた。うんうん。だから賞味期限切れのパイン缶を一晩で30缶食べた。……ん?
刑事はCAの彼女に振られて、ずっと傷心でいた。うんうん。だから自分の部屋が寂しく見えて、部屋の物ひとつひとつに話しかけていた。……ん?
飲食店の店員フェイは刑事が好きで好きでたまらなかった。うんうん。だから毎日刑事の部屋に忍び込んでは、魚を足したり、スリッパを色違いに変えたり、せっけんを新しいのにしたり――。……ん?
 
こんな感じで20歳の私は登場人物たちの心情に寄り添えたかと思えば、常軌を逸した行動の数々が理解できない、の連続。
18歳のころに見たときもツッコミどころがなかったといえばうそになるけど、あのときは何も考えずに純粋にキャラクターの一挙一動を見守れていたはず。
 
映画の見方が年によって変わってくるといううわさは本当だった。
2年前には気づけなかった感情がある一方で、2年前の純粋な目線は失われつつある。
しかしこの映画をもっと大人になって見たときに、意味不明だったな〜っとは思いたくないと思った。頭で理解するだけでなく、感じる心を持ち続けたい。
 
現実が悲しいからバッドエンドの映画は胃もたれしてしまうと感じる大人になる前に、いや、ならないように? 私たちの心を好奇心でいっぱいにかき乱してくれるような、こういう映画をたくさん見ておきたいなと思った。
 
27年も前の映画だから古臭いとは思わないでほしい。
ただの昔の映画だったら、27年のときを経て、日本の映画館で再上映されるわけがない。
ぜひこの映画を若者が見て、若者の感性で捉えてほしい。
 
さっきから若者が若者若者ってうるさいけど、かつて若いときにウォン・カーウァイの作品を愛した大人たちも、青春時代にはこの作品に出会えなかった大人たちも、今の感性でこの映画を見てほしい。そして、ぜひ何を感じたか私に教えてください。
そしたらきっと、大人になるのも悪くないなって思える気がする。

ライター
青山波月

青山波月

あおやま・ なつ 2001年9月4日埼玉県生まれ。立教大学現代心理学部映像身体学科卒業。埼玉県立芸術総合高等学校舞台芸術科を卒業後、大学で映画・演劇・舞踊などを通して心理に及ぼす芸術表現について学んだ。現在は英国在住。
高校3年〜大学1年の間、フジテレビ「ワイドナショー」に10代代表のコメンテーター「ワイドナティーン」として出演。21年より22年までガールズユニット「Merci Merci」として活動。好きな映画作品は「溺れるナイフ」(山戸結希監督)「春の雪』(行定勲監督)「トワイライト~初恋~」(キャサリン・ハードウィック監督)。特技は、韓国語、日本舞踊、17年間続けているクラシックバレエ。趣味はゾンビ映画観賞、韓国ドラマ観賞。

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