ひとしねま

2022.10.14

チャートの裏側:劇場ならではの爽快感を

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

初登場4位の「七人の秘書 THEMOVIE」は、スタート4日間で興行収入が2億4000万円だった。ヒットにあと一歩だが、「こんなものだろう」という映画館関係者の声が聞こえてきた。年配者中心の予測があり、事実そうなったからだ。その層が占めると数字の伸びに限界がある。

長野県のある牧場建屋で火事が起きた。どうやら、その牧場をはじめ、多角的な事業を展開する地元経済界の大立者が関係しているらしい。「七人の秘書」が登場して、悪をさばく。理屈はいらない。観客は、そのあたりを十分にわきまえている。それが本作の前提である。

ただ、映画を見て思ったことがある。もっと、スカッとしたかった。爽快感がほしかった。権力側にはびこるこの世の悪を、「懲らしめる」(一人の秘書のセリフ)のが筋なのだから、観客側の日ごろの鬱憤を晴らすことが作品の主眼だ。本作は、この鬱憤晴らしの力が弱い。

原因は話の展開だろうと思う。悪をなぎ倒す正義の側に、もっと恨みや切迫感を込めてもよかった。それがあるから、悪への怨念(おんねん)が膨らみ、正義への共感が生まれる。スカッとする。今回の映画版は、マイルド感があふれ機能的な役割分担に終始するテレビ版と、大きく変えたらどうだったか。映画館とお茶の間は違うと思うからである。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)