彼女はひとり  ©2018「彼女はひとり」

彼女はひとり ©2018「彼女はひとり」

2021.10.21

特選掘り出し!:彼女はひとり 疎外といら立ち、容赦なく

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

心に潜むどろどろとした感情を表現して才気をにじませ、国内外の映画祭などで注目を集めた中川奈月監督作品。「ひらいて」と同様に、20代の若手女性監督が渾身(こんしん)の思いを昇華させ、その作劇にグイグイと引き込まれた。

高校生の澄子(福永朱梨)は、橋の上から身を投げるが自殺は未遂に終わる。数カ月ぶりに学校に戻ってくるが、幼なじみで同級生の秀明が、女性教師の波多野と交際している証拠をつかみ脅迫する。澄子の家族、秀明との過去が重なり合い、澄子の言動はしだいにエスカレートしていく。

澄子が秀明を責める姿に容赦がない。中川監督は人の汚い部分、見たくないものを鮮明に映し出して鋭利な刃を突きつける。澄子は世の中の不満を浴びていら立ち、怒りを爆発させる、特に女性の姿にもとれる。同時に、愛しても愛されない寂しさも膨らませていく。自分が周囲から拒絶されるたび、疎外感と悲壮感を深めていく。自分を認めてほしいという承認欲求が肥大化し、何者をも破壊させたいという暴力的な言動が際立っていく。力を見抜いたベテラン芦澤明子撮影監督がサポートした。1時間。東京・K’scinema(23日から)、大阪・シネ・ヌーヴォ(11月20日から)。(鈴)