毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.5.13
チャートの裏側:この国を覆う不信の本質
新作が2本入り、既におなじみのタイトルが何本も並んでいる。いつものようなチャートではあるが、興行の中身は全く違う。ゴールデンウイーク(GW)興行が過ぎ、各作品とも一気に数字を落としている。新作も東京都内などで上映館がなく、本来の力が発揮できていない。
GWが終われば、興行は低調になるのが常だ。ただ、今年は4都府県に出た緊急事態宣言下の映画館の休業も、当然ながら響いている。新型コロナウイルスの感染拡大もある。強力な新作もない。この5月は、見込んだ興行収入の60~70%減となりそうな興行会社が多いと聞いた。
緊急事態宣言の延長と、愛知、福岡両県の追加により、さらに映画館は混乱、混迷の度合いを深めている。都と大阪府が休業要請を継続し、中身を緩和した政府と異なる方針を示したことが大きい。結局、大手シネコンは、東京、大阪の休業要請を受けることになった。
ミニシアターは再開が増えたが、こちらはもともと休業への「協力依頼」が多い。再開は当然だが、今回、都によるシネコンなどへの休業要請の理由が明確に示されないのは問題だろう。それはこの国を覆っている不信感や不安感の根本原因でもある。何をやるにも、知見やデータに基づいた説明が果たされない。この根はとても深い。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)