「シスター 夏のわかれ道」© 2021 Shanghai Lian Ray Pictures Co.,Ltd. All Rights Reserved.jpeg

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2022.11.25

時代の目:「シスター 夏のわかれ道」 夢と幼い弟、さまよう姿

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

およそシネコンチェーンで大規模公開されるタイプではない小品でありながら、2021年の中国で大ヒットしたヒューマンドラマ。主人公は四川省成都の若い看護師アン・ラン(チャン・ツィフォン)。交通事故で両親を亡くした彼女の前に、一度も会ったことのない6歳の弟ズーハンが現れる。

親戚たちは実の姉が弟を引き取るのは当然だと主張するが、医師を志して北京の大学院進学を目指すアン・ランにとってワガママな弟はお荷物でしかない。女ゆえに両親に〝望まれない子供〟と見なされて育ったアン・ランの複雑な心情からは、15年まで続いた一人っ子政策のひずみが透けて見える。

しかし中国特有の問題だけを扱った作品ではない。個人的な夢を優先するか、それとも家族の情を取るか。さらに女性が抱える生きづらさや家父長制といった万国共通の主題を取り込み、悩めるアン・ランの選択のドラマに切実な迫力を与えた。主人公をあえて同情を誘うか弱い存在にせず、勝ち気で反骨精神あふれる女性として描いた視点も現代的。成都の街をさまよう姉弟の姿を捉えたロングショットもまた素晴らしい。イン・ルオシン監督。2時間7分。東京・新宿ピカデリー、大阪・なんばパークスシネマほか。(諭)