2022年の興収1位となった「ONE PIECE FILM RED」 ©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

2022年の興収1位となった「ONE PIECE FILM RED」 ©尾田栄一郎/2022「ワンピース」製作委員会

2023.2.07

「ONE PIECE」の衝撃:映画のミカタ

毎日新聞のベテラン映画記者が、映画にまつわるあれこれを考えます。

勝田友巳

勝田友巳

2022年の映画界、ちょっとした異変が起きた。邦画の興行収入トップが、東映作品だったのだ。アニメ「ONE PIECE FILM RED」の197億円で、東映作品が1位になったのは1990年の「天と地と」以来、実に32年ぶり。この間ずっと、東宝の天下だった。「ONE PIECE FILM RED」は、東映の年間最高興収記録だった09年の179億円を1作で上回り、全体を325億円に押し上げた。公開中の「THE FIRST SLAM DUNK」も100億円に迫って、21年に創立70年を迎えた東映、好調が続く。

邦画のアニメ頼みは今に始まったことではないが、22年の当たり方はすさまじかった。2位の「劇場版 呪術廻戦0」(138億円)、以下「すずめの戸締まり」(約131億円)、「名探偵コナン ハロウィンの花嫁」(約98億円)と邦画興収の4位までを独占(ちなみに1位以外は東宝作品)。ヒットの目安となる興収10億円以上の26本中、14本がアニメで、興収合計737億円は邦画全興収の半分を超える。

日本映画製作者連盟の記者会見で、東映の手塚治社長は「アニメの波が来ている」と話した。コロナ禍の巣ごもり需要と配信の普及で、旧作を見た観客が新作を求め、ストーリーも原作をそのまま映画化するのではなく、番外編的な工夫を凝らしたと分析した。コロナ禍の影響が残って実写大作が少なく、娯楽作を求める家族層の受け皿ともなったのだろう。

ただ、ヒットアニメの中で、オリジナルは「すずめの戸締まり」だけ。ほかは長寿シリーズか、深夜枠アニメの劇場版だ。上位作品こそ物語のスケールが大きく映像も精緻で、登場人物の相関関係や背景を熟知していなくてもそれなりに楽しめる作りにはなっていた。しかし多くは映画だけで完結せず、前提となる世界観の知識が必要だ。アニメ映画は独立した作品というより、多方面で展開する「知的財産(IP)」の一形態、という傾向が進んでいる。

東宝は創立100年に向けた経営計画の中で、それを明確に位置づけた。映画事業からアニメを独立させて「映画」「演劇」「不動産」と並ぶ第4の柱とし、映画のように単体で収益を目指すだけでなく、IPとしてテレビシリーズ、映画、DVDなどと相乗的な利益創出を図るという。

観客の側も、既知の世界で満足を保証してくれるものを選びたがっているように見える。ヒット作リストの圏外には「犬王」「グッバイ、ドン・グリーズ!」「ブルーサーマル」など、単体で勝負したアニメもあるのだ。芸術文化としてのアニメの発展には、挑戦が欠かせない。作る方にも、そして観客にも。願わくは、23年のヒット作リストがさらに多彩にならんことを。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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