ひとしねま

2022.8.19

チャートの裏側:戦争を伝えるため今こそ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

8月15日を迎えて、今年も改めて思ったことがある。夏興行における邦画の戦争映画が少なかったことだ。特に、大手の映画会社が製作する戦争映画大作は一本もなかった。かつては、夏に多くの観客を想定した戦争大作が公開されたものだ。その機運は今や随分低下した。

戦争大作が夏に限らず、ある程度の数が作られていた時代背景として、作る側と見る側の意識が高かったことが挙げられると思う。両者に、戦争経験者が多くいた。戦争への関心が今とはまるで違った。双方の経験値は、中身と興行面で強烈なインパクトがあったことだろう。

ここで、あえて今、私の別の意味の経験値から言いたいことがある。1967年8月、映画好きな父に連れられ、「日本のいちばん長い日」を見に行ったのである。13歳だった。迫力あるモノクロ映像、残虐な描写もあり、心底怖かったのを覚えている。でも、引き付けられた。

血気にはやる軍人と対極的に、笠智衆が演じた鈴木貫太郎首相の冷静、沈着な態度、行動が、子ども心に目に焼き付いた。初めて戦争を考えた作品だった。戦争を伝えるとは、そういうことではないのか。そのためには、国民的な関心を集めるような大手による戦争大作が望まれる。題材は無尽蔵にある。まさに今こそ、である。遅くはない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)

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