「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」より © UNIVERSAL STUDIOS ©2023 ABImages

「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」より © UNIVERSAL STUDIOS ©2023 ABImages

2023.6.27

「ワイルド・スピード」シリーズの紆余曲折と息の長い盛り上がりを検証する

村山章

村山章

日本でも興業収入ランキングで初登場1位を勝ち取り、安定した人気を見せつけた「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」。2001年から続く「ワイスピ」シリーズの10作目(スピンオフを含めると11作目)にして、シリーズ完結編の前編とも、3部作の1作目だとも言われている。
 
22年をかけて巨大フランチャイズへと成長を遂げた「ワイスピ」だが、現在の興隆にいたるまでには幾度も紆余(うよ)曲折があり、決して順風満帆ではなかった。さまざまな事情で何度も危機にさらされ、それでもファンの支持と期待に応えるかたちで、奇跡のように継続してきたのだ。
 

「ワイルド・スピード」より 
© 2006 MP Munich Pape Filmproductions GmbH & Co. KG. All Rights Reserved.

「ワイスピ」の基本は改造車とスピードが大好きなエキスパート集団の活躍を描くアクション

 「ワイスピ」の基本は、改造車とスピードが大好きなエキスパート集団が、世界をまたにかけて大活躍するアクション巨編。しかし01年の第1作「ワイルド・スピード」の時点では、舞台はロサンゼルスのストリート限定で、車を使った強盗団のカリスマリーダーと潜入捜査官の間に芽生える友情を描いたクライムサスペンスだった。
 
主演に選ばれたのは、当時売り出し中の若手スターだったポール・ウォーカーと、スティーブン・スピルバーグ監督の「プライベート・ライアン」で兵士のひとりを演じて注目を浴びていたビン・ディーゼル。映画はスマッシュヒットとなり、ディーゼルが主演格のスターとなる道を開いた。
 
ところが第2作「ワイルド・スピードX2」でディーゼルが離脱してしまう。その結果、ポール・ウォーカーの単独主演となり、ウォーカー演じる元潜入捜査官のブライアンが、マイアミで別の潜入捜査に従事するという1作目とはほぼ関連がない物語になった。
 
第3作「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」では、日本で流行したドリフト走行レースに注目し、舞台も東京に移された。本来ダブル主演のひとりだったポール・ウォーカーは声もかけられず、主人公はレース好きが高じて日本に転校させられるヤンチャな高校生に交代。ハチャメチャで楽しい作品だが、果たしてこれは「ワイスピ」シリーズなのかとファンが戸惑うのも仕方ないことだった。
 
「TOKYO DRIFT」はアメリカでの興行が振るわず、シリーズはこのまま消滅する運命かと思われた。しかし製作陣も危機感を覚えていたのだろう。一旦は完成していた「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」に追加撮影を行い、ビン・ディーゼルを1シーンだけカメオ出演させたのである。
 
1作目で離脱したディーゼルも、「ワイスピ」で演じたドミニク・トレットというキャラクターがファンに変わらず愛されていることに気づいていた。ディーゼルはシリーズ復帰にあたって自らもプロデューサーとして参画することを提案。シリーズのかじ取り役を買って出て、仕切り直しを図ることになる。
 

「ワイルド・スピードX3 TOKYO DRIFT」より
© 2006 MP Munich Pape Filmproductions GmbH & Co. KG. All Rights Reserved.


日本が舞台だった3作目から、日本では右肩上がりで観客動員が増加

 オリジナルキャストを呼び戻し、再びポール・ウォーカーとビン・ディーゼルのW主演となった第4作「ワイルド・スピードMAX」はシリーズ最大のヒットを記録。続く第5作「ワイルド・スピードMEGA MAX」では前作の1.5倍(1作目の3.3倍)の1億2500万ドルもの製作費を投じ、超大作にスケールアップ。
 
それまでの犯罪カーアクションから、荒唐無稽(むけい)でド派手なアクションシーンを連発する豪快なエンターテインメントへと変貌を遂げる。世界興収は約2倍の6億2600万ドルを叩き出した。
 
シリーズものは1作目か2作目でピークを迎え、それ以降は人気もクオリティーも落ちていくことが多いものだが、方針の定まらなかったワイスピが5作目で大化けしたことは異例の事態であり、一貫して応援してきたファンにとっても大きな驚きだった。
 
製作陣がシリーズを放棄しなかった理由として、熱心なファンの支持は大きかったに違いない。というのも、A級スターが出演しているわけではないが、レンタルビデオ市場で安定した人気をキープし、とりわけ熱心な映画ファンとはいえない客層をしっかりとつかんでいたからだ。
 
ハリウッド大作では珍しく、ラテン系や黒人系、アジア系などマイノリティーとされている人たちがメインであることも、独自のファン層を開拓することになった。劇場での興行が振るわなくても、着実にファンは増えていたのだ。
 
日本でも、地方のレンタル店で高回転をキープする安定コンテンツと言われ、また3作目の舞台が日本だったこともあって、世界でも珍しく右肩上がりに観客動員を増やし続けていた。
 

「ワイルド・スピード SKY MISSION」より © 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.

「MEGA MAX」以降はキャストをレギュラー化、見せ場を与えお祭り感を高める

 過去の登場人物がオールスター形式で集結した「MEGA MAX」を契機に、製作陣も「これからはファンとキャラクターを大事にする」と覚悟を決めた。ハリウッド映画のキャスティングは大人の事情に振り回されがちだが、キャストを次々レギュラー化させてそれぞれに見せ場を与え、さらに大物スターを次々と呼び込んでお祭り感を高めていった。
 
5作目以降にレギュラー、もしくはセミレギュラーになった顔ぶれを挙げてみよう。ドウェイン・ジョンソン、ジェイソン・ステイサム、カート・ラッセル、シャーリーズ・セロン、ヘレン・ミレン、ジョン・シナ。そして最新作「ファイヤーブースト」ではジェイソン・モモアとブリー・ラーソンとリタ・モレノが参加している。
 
いずれも主演級のスターであり、特に女性陣のアカデミー賞受賞率の高さにも驚く。芸術性で語られることなど皆無に等しい「ワイスピ」だが、役者だろうが観客だろうが、とにかく参加すればファミリーの一員として、べらぼうに楽しいときが過ごせると感じさせる勢いが、シリーズをますます大型化させていった。
 
第7作の「ワイルド・スピードSKY MISSION」では、ディーゼルとダブル主演を張ってきたポール・ウォーカーが、撮影中に事故死する悲劇に見舞われている。スタッフとキャストは一丸となって映画を完成させ、劇中ではウォーカーが演じたブライアンというキャラクターを生かしたままで、静かにさよならを告げる美しいラストシーンで締めくくった。現時点での最高記録である15億1500万ドルを売り上げたこの作品が、おそらくシリーズのひとつの頂点だったろう。
 
その後もトラブルはあった。ドウェイン・ジョンソンと主演兼プロデューサーのビン・ディーゼルとの仲たがいが大きく報道され、ジョンソンは8作目を最後に「二度と出演することはない」と公言した。1作目からディーゼルの恋人役を演じてきたミシェル・ロドリゲスが、女性キャラに添え物的な役割しか与えられていないと非難し、改善されなければ降板すると宣言したこともある。
 
しかし、どれだけ浮沈があっても、軌道修正を行い挽回してきたのがワイスピの歴史でもある。「ファイヤーブースト」のラストでは、ドウェイン・ジョンソンの電撃復帰がジョンソンの出自であるプロレスのようなノリで発表され、またワイスピ出身者で「ワンダーウーマン」に抜てきされて大出世したガル・ガドットもシリーズに戻ってきた。
 
水面下でさまざまな調整や交渉が行われたことは想像に難くない。ご都合主義がすぎるという見方もあるが、シリーズ完結に向けて、どんなキャラも取りこぼすまいという決意の表れとして前向きに受け止めたい。
 

「ワイルド・スピード/ファイヤーブースト」より

次回作だけでなく、スピンオフ企画も控え、今後の展開が楽しみ

 さらに製作陣は、さらなる話題のタネを投じて〝ワイスピ祭り〟の炎を燃やし続けるつもりらしい。というのも、SNS上でついに口を開いたドウェイン・ジョンソンが、シリーズ次回作の前にジョンソン演じるホブス捜査官が主人公を務める単独主演作の製作を発表したのである。
 
当初は10作で完結すると発表されていたが、11作目が決まり、さらに12作目まで続く可能性が濃厚になった。11作目の全米公開は2025年4月の予定だが、その前にジョンソン主演の番外編がもう1本投入されることになったのだ。
 
近年のシリーズの発表ペースは2年に1本。さらに数本のスピンオフ企画も開発中で、「ワイスピ・フランチャイズ」はまだまだ増殖を続けることになる。映画の内外でサプライズを仕掛け、大風呂敷を広げ続けるワイスピ式ビジネスモデルが行き着く先はどこなのか? 本来映画興行が持っていたハッタリの面白さを現在進行系で形にしているシリーズだけに、今後もどんな隠し玉を用意しているのか、まだまだ目が離せそうにない。


 
 


「ワイルド・スピード」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2006 MP Munich Pape Filmproductions GmbH & Co. KG. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード X2」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© MIKONA PRODUCTIONS GmbH & Co.KG. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード X3 TOKYO DRIFT」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2006 MP Munich Pape Filmproductions GmbH & Co. KG. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピードMAX」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2009 Universal Studios. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード MEGA MAX」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2011 Universal Studios. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード EURO MISSION」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
Film © 2013 Universal Studios. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード SKY MISSION」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2015 Universal Studios. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード ICE BREAK」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2017 Universal Studios. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード/スーパーコンボ」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6589円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2019 Universal Studios. All Rights Reserved.
 


「ワイルド・スピード/ジェット・ブレイク」
4K Ultra HD+ブルーレイ:6980円(税込み)
Blu-ray:2075円(税込み) / DVD:1572円(税込み)
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
※2023年6月時点での情報です。
© 2020 Universal Studios. All Rights Reserved.

ライター
村山章

村山章

むらやま・あきら 1971年生まれ。映像編集を経てフリーライターとなり、雑誌、WEB、新聞等で映画関連の記事を寄稿。近年はラジオやテレビの出演、海外のインディペンデント映画の配給業務など多岐にわたって活動中。