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2022.7.31
10話一気見! 本編より波瀾万丈の舞台裏 「ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男」:オンラインの森
全10話、10時間近いシリーズを一気に見終えてしまった。U-NEXTで配信されている「ジ・オファー/ゴッドファーザーに賭けた男」の話だ。「映画史上に燦然(さんぜん)と輝く名作『ゴッドファーザー』(1972年)を作ったのは誰?」と聞かれたら、多くの人が監督のフランシス・フォード・コッポラだと答えるだろう。しかし現実はそんなに単純なものではなかった。マフィア映画に負けず劣らず波瀾(はらん)万丈だった狂騒の舞台裏を、プロデューサーのアルバート・S・ラディの視点で描いたこのドラマを見れば、「ゴッドファーザー」がさらに2倍は面白くなるはずだ。
「イタリア系だから」監督託されたコッポラ
今でこそ映画史に残る大傑作として語り継がれている「ゴッドファーザー」だが、完成までの道のりは苦難の連続だった。パラマウントの製作責任者だったロバート・エバンスはヒット作が出せずに崖っぷちにいたし、経営陣は「ギャング映画は当たらない」とまったく乗り気じゃなかった。新進プロデューサーだったラディが抜てきされたのは低予算で手早く作れると評判だったからで、コッポラは多くの有名監督に断られた後、主にイタリア系だからという雑な理由で監督を依頼された。
さらにいえばマフィアのドン、ビトー・コルレオーネを演じてアカデミー主演男優賞に輝いたマーロン・ブランドは、当時は盛りを過ぎた落ち目のスターとみなされ、現場で問題を起こす要注意人物扱いだった。息子のマイケル役で一躍脚光を浴びるアル・パチーノはまだ無名の新人で、いつ降板させられるかとおびえながら演じていた(実際にパチーノを降ろす動きは何度もあった)。彼らは皆、輝かしい未来など約束されていない状況下で、文字通り「ゴッドファーザー」という作品にキャリアを賭けたのだ。
ハリウッドの歴史絵巻も映し出す
「ジ・オファー」は現在92歳のアル・ラディの回想をベースにしているが、描いているのは「ゴッドファーザー」の製作秘話にとどまらない。映し出されるのは、60年代末から70年代初頭のハリウッドとニューヨークの歴史絵巻といえる。
例えば第1話の冒頭で登場するのは、映画関係者ではなく実在のマフィア、ジョー・コロンボで、5大ファミリーのひとつ「コロンボ・ファミリー」を構える場面から始まる。「ゴッドファーザー」のメーキング本を書いたハーラン・リーボは製作チームとマフィアの協力関係を過小に見せようとしていたが、劇中ではラディがコロンボと奇妙な友情で結ばれ、抜き差しならない関係に陥っていく様子が描かれている。
また、映画ファンにはたまらない小ネタもふんだんに用意されている。随所に「ゴッドファーザー」の名場面の構図が引用されているのを見つけるのも楽しいし、ラディがロバート・レッドフォードに出演交渉するシーンで再現されているのは、「明日に向って撃て!」の有名なラストシーンのロケセットだ。レストランの場面でシナトラの横に座っているのはミア・ファローだし、コッポラの登場シーンで後ろにいるひげ面の若者はジョージ・ルーカスだろう。
モデル俳優の特徴を完コピ
筆者が懸念を抱いていたのは、誰もが知っている実在の人物を演じている役者たちがあまり似ているように思えなかったこと。そっくりさんを起用したりモノマネ演技をしたりする必要はないのだが、さすがにブランドやパチーノを演じる役者が似ても似つかないのでは困る。
パチーノを演じているのはアンソニー・イッポリトという若い役者で、正直最初は「これがパチーノ?」と思ってしまった。しかし彼がセリフを発した瞬間に驚いた。その口調も声色も、背中を丸めたたたずまいもみごとにアル・パチーノだったからだ。思えば「ゴッドファーザー PART II」で若き日のビトーを演じたロバート・デ・ニーロも、ブランドの声色に不気味なくらい寄せていた。ほかの出演者たちもモデルになった人物の特徴を巧みにつかんでおり、さすがは俳優と当たり前のことに感心してしまった。
もはや「ゴッドファーザー」は映画界の伝説であり、関係者がそれぞれに自分の経験を語ってきた。しかし語り部が多いほど証言のディテールは食い違い、真相はやぶの中の部分も多い。本作もドラマ向けに脚色されていて、すべて史実通りというわけではないが、「ゴッドファーザー」を生んだ時代の息吹や、映画作りに心血を注いだ関係者たちの情熱は10話分の盛りだくさんなエピソードにしっかりと刻み込まれている。できれば続編として「ゴッドファーザー PART II」のメーキングドラマも作ってほしいし、もちろんアル・パチーノ役はアンソニー・イッポリトの続投でお願いします!
U-NEXTにて見放題で独占配信中。