ミシェル・アザナビシウス監督

ミシェル・アザナビシウス監督

2022.7.13

インタビュー:「キャメラを止めるな!」ミシェル・アザナビシウス監督 超有名監督が低予算日本映画をリメークしたら 

勝田友巳

勝田友巳

まさかの大ヒットを記録した「カメラを止めるな!」が、フランスでリメークされて「キャメラを止めるな!」になった。監督は「アーティスト」で米アカデミー賞作品賞などを制したミシェル・アザナビシウス。世界的監督が超低予算自主製作作品をいかに料理したか。アザナビシウス監督に聞いた。
 


 

筋立ては同じでもパーソナルな物語に

プロデューサーから「リメークしないか」と誘われて、「カメ止め」を鑑賞。「実は似たような題材を探していた時だったんだが、アイデアはすばらしいし、スマートで構成が秀逸。大いに楽しんだ。低予算映画と聞いて、驚いた。忠実にリメークしつつ、パーソナルな作品にできると確信した」
 
筋立ては、ほぼ同じ。前半は「ゾンビ映画の撮影隊の監督が、迫力のある映像を撮るために封印を解き、本物のゾンビを呼び出す」という映画をワンカットで見せ、視点を変えた後半で映像の謎解きをする。
 
「カメ止め」は、無名だった上田慎一郎監督が、無名の役者と超低予算で製作。多くの観客にとって後半の展開全体がどんでん返しとなり、新鮮な驚きがあった。低予算故の画面のチープさが、映画そのものの仕掛けでもあった。しかし「キャメ止め」は世界的監督であるアザナビシウスが、ロマン・デュリスら有名俳優を起用して製作。予算の規模も桁違いだ。
 
「『カメ止め』は監督も役者も無名で、観客は前半を本当にひどい映画と信じて見たと思う。でも『キャメ止め』に出演したのは誰もが見覚えがある有名俳優で、監督の自分も知られている。わたしは過去にパロディーも作っているから、観客は身構えてこの映画を見るはずだ。同じ雰囲気とはいかない」
 

竹原芳子も出演

アザナビシウス監督はスパイ映画のパロディー「OSS 117」シリーズや、ジャン・リュック・ゴダール監督をモデルにした「グッバイ・ゴダール!」などを手がけており、コメディーはお手の物。フランス語の元々のタイトルは「Z」。ゾンビのZを連想させつつ「〝B級〟よりずっとひどい、最低という意味」だそうだ。
 
「『カメ止め』は、日本では観客が構造の仕掛けに驚いて、こぞって2度見したと聞いている。俳優についても、はじめはヘタな演技だと思っていたのが、後半になってどれだけ巧みに演じていたか気付く仕掛けになっていた。『キャメ止め』は違うバージョンで、オリジナルの驚きはなくても、別の楽しみ方ができると思うよ」
 
「キャメ止め」の中のゾンビ映画の登場人物は、フランス人なのに「ヒグラシ」「ナツミ」「チナツ」となぜか日本名。「カメ止め」に出演していた竹原芳子が日本人プロデューサー役で出演し、フランスの放送局が日本でヒットした映画のリメークをするという設定なのだ。
 

新たなレイヤー加え仕立て直し

「映画内映画という仕掛けに、さらにリメークというレイヤー(層)を加えて、メタ要素を取り込んでみた。有名な俳優が日本名の役を演じる不自然さも、観客にあえて何かあるなと思わせるため」。どんでん返しが見せ場の映画をリメークするに当たって、さらなるひねりを加えたというわけ。言ってみればネタの割れた企画モノを承知の上で、新鮮な作品に仕立て上げた。「観客は、『カメ止め』とは違う経験をするだろうね」
 
「カメ止め」と同じなのに、別物。映画の魅力がここにある。「同じ脚本でも、3人の監督が作れば3通りの違った映画になるだろう。どの作品も、監督に似るものだ。『キャメ止め』もオリジナルに忠実だけど、俳優もジョークもリズムもペースも、わたしのものなんだ」
 
この作品に限らず、「アーティスト」「グッバイ、ゴダール!」とも、映画作りの映画。新作も映画製作の舞台裏を描くという。
 
「映画を作ること自体に、物語としての感動がある。物語に注ぐエネルギーに興味があるんだ。自分の映画を作るという点では、リメークでもオリジナルでも何も変わらない」。そして映画の良さを説く。「映画は役に立たないかもしれないけれど、絶対必要でもあると思う。実人生以上の何かになる可能性があるんだ」
 
7月15日、全国公開。
 

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

この記事の写真を見る

  • ミシェル・アザナビシウス監督
さらに写真を見る(合計1枚)