毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.2.04
チャートの裏側:実写の邦画、心に響く新作
約4カ月ぶりの実写作品首位の「花束みたいな恋をした」は、恋愛の奇跡と普通を描く。奇跡は好み、趣味性のありえないような一致。普通は、生活上のよくある不一致だ。菅田将暉、有村架純主演の本作は、その卓抜な作劇術が面白い。特に恋愛の〝奇跡〟部分が全く新しい。
観客には若い女性が多い。本作の変化球的な恋愛劇へのアプローチが、彼女たちの心のアンテナに届いたのだろう。最終興行収入は10億円超見込みで及第点だが、この力業ならもっと上を望む。今の観客は、変化球に慣れていないかもしれない。今後は、その見極めが気になる。
「ヤクザと家族 The Family」は、ヤクザになった1人の男がたどる長い歳月を描く。前半は男が組に入るまで。中盤から対立する組同士のいさかい。後半は、ヤクザ排除の社会風潮のなか、犠牲になる男の家族や仲間の姿が前面に出る。私はワクワクし、心もかき乱された。
ヤクザ映画的な娯楽性と問題意識的な社会性が、合わせ鏡のようになる作品構造が見事だ。自分でまいた種とはいえ、男のたどる道筋の過酷さはヤクザという役柄を超える。ここが本作の真骨頂だろう。昨年、最初の緊急事態宣言後の厳しい時期に公開された「MOTHER マザー」と同じ河村光庸プロデューサーが、作品の手綱を握った。今回も感謝以外ない。(映画ジャーナリスト・大高宏雄)