毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2021.11.04
「アンテベラム」
米南部のプランテーションに捕らわれ、白人の奴隷として過酷な日々を送るエデン。女性の人権を説き、絶大な人気を博しているベストセラー作家のヴェロニカ。そんな何もかも対照的な境遇に置かれた主人公たちがたどる過酷な運命を、「ドリーム」のジャネール・モネイが1人2役で演じたスリラー映画だ。
時代背景さえ隔たっているように思える二つの物語、2人の女性にどのような関連性があるのか、中盤までは謎だらけ。そこから映画は予想外の急展開を見せていく。いわゆるネタバレ厳禁のトリックが仕組まれた作品なので、あっと驚く種明かしは見てのお楽しみ。脚本も執筆した新人のジェラルド・ブッシュ、クリストファー・レンツ監督の狙いは、スリラージャンルの体裁を利用して政治的な分断が深まるばかりのアメリカの今を射抜くこと。かなり奇抜な陰謀劇なのだが、SFでもオカルトでもなく、妙に恐ろしい現実味がこもった一作である。1時間46分。東京・TOHOシネマズシャンテ(7日から)、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)
異論あり
冒頭に引用されるフォークナーの小説の一節が核心を語っていて、後は肉付けした物語の確認作業に。ヴェロニカとエデンの設定にもうひとひねりあればメッセージにも膨らみが出せたのではないか。過去と現在をつなぐラストは、びっくりはしたがニヤッと笑ってしまった。(鈴)