「グリーン・ナイト」のデビッド・ロウリー監督

「グリーン・ナイト」のデビッド・ロウリー監督

2022.12.05

インタビュー:クリスマスに始まる暗黒の旅 鬼才が描くダークファンタジー 「グリーン・ナイト」デビッド・ロウリー監督

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勝田友巳

勝田友巳

監督の名前で映画を選ぶ人は少なくなったと聞くが、デビッド・ロウリーはどうだろう。「セインツ 約束の果て」(2013年)、「A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー」(17年)などで独創性と個性を発揮。公開中の新作「グリーン・ナイト」では、アーサー王伝説を基にした物語を強烈な映像でつづり、ロウリーファンならずとも魅了されるに違いない。少年時代に抱いたアーサー王伝説と「スター・ウォーズ」への愛情が結実したダークファンタジーだ。

 

14世紀の叙事詩の現代性

「グリーン・ナイト」は、14世紀に書かれた叙事詩でアーサー王伝説の一つとされる「サー・ガウェインと緑の騎士」が原作だ。アーサー王のクリスマスの祝宴に現れた全身緑色の騎士の挑戦を受け、その場にいたガウェインが緑の騎士の首をはねる。緑の騎士は首を拾い上げ、「1年後に訪ねてこい。首を打つ」と言って去って行く。1年後、ガウェインは約束通り、緑の騎士を探す旅に出る。
 
ロウリー監督が大胆に翻案したとはいえ、大筋は原詩の通りだ。「700年も前に書かれたとは思えない現代性を持っている。詩の一つの言葉や数行を膨らませてエピソードにしたが、すべて原詩にあること。常にテキストに立ち返って、変更した箇所もあったけれど理由があった」と語る。
 

「グリーン・ナイト」© 2021 Green Knight Productions LLC. All Rights Reserved.

首を切られるために旅立つ主人公

「脚本化にあたって苦労したのは、ガウェインの旅を現代の観客にとって納得できるものにすることだった。なにしろ、自分から首を切られるために旅立つのだから。エピソードはすべて騎士の美徳に関連するように意図されていて、その原詩の精神に忠実であろうとした」
 
脚本化することで、新たなテーマも浮かび上がった。原詩では別々の登場人物だった、ガウェインの母親と魔女モーガン・ル・フェイをひとりに統合。映画の中で、母親はガウェインに試練を与えながら見守っている。
 
「息子に多くを望みながら、どう導いていいか分からない母親の物語になった。それは、自分と母親との関係でもあった。小さい頃、やりたくないことを無理やりさせられて、怒ったり傷ついたりしたけれど、私のためを思ってくれたと大人になって理解した。名前を一つ変えただけで、個人的な物語が表面に現れた」


文明と自然の関係をただす緑の騎士

緑の騎士は自然の象徴、ガウェインが代表する人間を、超越する存在だ。原詩ではあいまいだったその関係性を、ロウリー監督は明瞭にした。
 
「人間と自然の関係はいつも考えていることで、機会があれば表現しようと思っている。人間は自然を管理しようとして失敗し、文明が自然のバランスを混乱させている。いつか自然がその正しい姿を取り戻そうとするだろうとね」
 
映画化にあたって原詩を読み直し「新鮮だった」という。「ガウェインが恐怖と闘い、克服する道のりは映画ではより明確にしたけれど、信じられないくらい現代的で今に通じている。だからこそ、長い年月を超えて語り継がれてきたし、これからも長く生き続けるだろう。誠実さを求める物語は、常に新しいのだと思う。映画に普遍的なものがあるとすれば、すべて原詩のおかげだよ」
 

脚本が映像で浮かんでくる

どのショットも絵画的で、悪夢のように恐ろしくも甘美で官能的でもある。「言葉がなくても映像で語るのが映画だ」とロウリー監督は言う。
 
「脚本を書きながら映像が浮かんでくるんだ。それをスタッフに伝えるんだけど、昔はうまくできなくて考えていたのとちょっと違うということもあった。でも経験を重ねてそれを伝える力を付けたから、この作品は頭の中で描いたのとかなり近い。時には脚本に、使うレンズやショットの長さも書き込んだ。外国に行って言葉の分からない映画を見ることがあるんだが、そういう時は映像により深く入り込める気がする。優れた映画はそれができると思う」

 

スター・ウォーズとアーサー王

ロウリー監督と「グリーン・ナイト」を掘り下げると、「スター・ウォーズ」が現れる。「『アーサー王伝説』に興味を持ったのは8歳か9歳のころ。同じ年ごろで『スター・ウォーズ』の大ファンになって、おもちゃもたくさん持っていた」。そして「スター・ウォーズ」のような映画を作る人になりたいと決意する。
 
大学生になってアーサー王伝説を再読し「いつか映画化を」と心に抱き、それからさらに20年。「騎士の旅を描いたファンタジー映画を作ろう」という着想から、ロウリー監督は「サー・ガウェインと緑の騎士」を取り寄せて再読する。クリスマスの場面を読んですぐ、「今まで映画で語られなかった物語だ」と脚本を書き始めた。
 
「スター・ウォーズ」と「グリーン・ナイト」、間をつなぐのはジョーゼフ・キャンベルだ。神話学者のキャンベルはアーサー王伝説などを分析して「千の顔を持つ英雄」を著し、「英雄の旅」が神話に共通の構造だと提唱した。ジョージ・ルーカスがこの本を読んで、「スター・ウォーズ」の着想に結びつく。その「スター・ウォーズ」がロウリー監督の映画の原点となった。
 

自分が作るのは道徳的なおとぎ話

「『スター・ウォーズ』の基になったことでキャンベルが知られるようになり、わたしも『英雄の旅』を学んだ。『グリーン・ナイト』は英雄の旅をなぞりつつ、批評的に逸脱していると思う。長い間に円環を描いたのかもしれないね」
 
そして「自分の作る映画は、ぜんぶおとぎ話だ」という。「実話を映画化した『さらば愛しきアウトロー』のころに、事実に基づくような物語は得意じゃないし好きじゃないと気付いた。『セインツ』だって、魔法はなくてもホメロスの『オデュッセイア』のような旅の話だった。まったく違う映画に見えても共通しているのは、道徳が中心にあるということ。たとえ伝統的な道徳からずれていたとしても、そして現実にはあり得ないとしても、その少し右や左にずれているだけだし、ちょっとだけ上に存在しているはずだ」
 
次回作は、ディズニーで配信される「ピーター・パンとウェンディ」。ファンタジーの王道を、鬼才がどう料理するのか。待ち遠しい。

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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