毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2022.1.13
「クライ・マッチョ」
1971年の監督デビュー作「恐怖のメロディ」から50年にあたるクリント・イーストウッドの新作だ。マイク(イーストウッド)はロデオ界の元スターで、今はテキサスで余生を送る孤独な男。恩義ある元雇い主から10代の息子を連れ戻すよう依頼された彼は、メキシコに旅立つ。
幾多の試練を経験してきた老人と少年が織りなすロードムービー。「センチメンタル・アドベンチャー」「グラン・トリノ」などの過去作をほうふつとさせる内容だが、ここには〝死〟を想起させる悲壮感はない。既視感のある物語とキャラクター、散漫で意外性のない脚本など難点はいくつもある。それでも老いた自分を虚飾なくさらけ出す、91歳の俳優イーストウッドの超然たるたたずまいがすごい。ぶっきらぼうだが柔らかな一挙一動が、人生の価値とは何かを体現しているかのよう。マッチョと名付けられた鶏との共演が、イーストウッドと動物との相性のよさを再確認させてくれるのも楽しい。1時間44分。東京・TOHOシネマズ日本橋、大阪・あべのアポロシネマほか。(諭)
ここに注目
メキシコで2人が出会う酒場の女主人、マルタ(ナタリア・トラヴェン)がすてきだ。彼女には「マッチョ」とは違う、女性ならではの強さがある。次第にひかれ合うマイクと、大人だからこその速度と距離感で親密になっていく様子に、しみじみとしたときめきをおぼえた。(久)