アカデミー賞作品賞候補「ドライブ・マイ・カー」©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

アカデミー賞作品賞候補「ドライブ・マイ・カー」©2021「ドライブ・マイ・カー」製作委員会

2022.3.22

第94回アカデミー賞授賞式迫る

94回目を迎える米国アカデミー賞のゆくえや結果を特集します。濱口竜介監督「ドライブ・マイ・カー」が作品賞など4部門にノミネートされ、がぜん注目をあびる今年の賞レースを、ひとシネマ流にお伝えします。

SYO

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第94回アカデミー賞授賞式が迫ってきた。日本映画「ドライブ・マイ・カー」の作品賞を含む4部門での候補入り、配信作品のいっそうの伸長と、ハリウッドの変化を反映して注目度が高まっている。今回のオスカーのゆくえ、見どころを映画ライターのSYOさんが解き明かす。

「ドライブ・マイ・カー」作品賞可能性あり

 

「歴史的瞬間」に立ち会っている

映画界最高峰の式典、第94回アカデミー賞授賞式が、日本時間3月28日に米国で開催される。今回は濱口竜介監督の「ドライブ・マイ・カー」が、作品賞、監督賞、脚色賞、国際長編映画賞の4部門ノミネートを果たしており(作品賞と脚色賞ノミネートは史上初)、例年以上に国内での注目度が高い。アカデミー賞のノミネート発表直後の「ドライブ・マイ・カー」の土日の興行収入は、なんと前週の5倍にまで跳ね上がったそう。2022年を生きる私たちは、まさに「歴史が変わった/変わる」瞬間に立ち会っているわけだ。
 


〝壁〟越えて対話する物語 映画人の心つかむ

「ドライブ・マイ・カー」は、村上春樹の短編集「女のいない男たち」に収録されている作品群を融合させ、アントン・チェーホフの戯曲「ワーニャ伯父さん」やサミュエル・ベケットの戯曲「ゴドーを待ちながら」などの要素を組み合わせた作品。いわば映画・小説・演劇をカバーした総合芸術であり、言語や死生、思想の〝壁〟を越えて人々が「対話」する物語は分断が叫ばれる現代において希望を見いだすものともいえ、映画的な意義をしっかりとまとってもいる。
 
そうした意味で、映画業界人で構成されたアカデミー会員の心をつかみやすい作品であり、当確とされている国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)以外にも、受賞の可能性は十二分にあるのではないか。ちなみに全米の興行成績は3月4日現在で180万ドル(約2億円)で、HBO MAXほか配信も始まっている。日本国内含め、授賞式までにより多くの人々に鑑賞され、認知が広がってゆくことだろう。
 

「ドライブ・マイ・カー」

作品賞候補に配信が3本 薄まる劇場との敵対関係

「ドライブ・マイ・カー」以外にも、今回のアカデミー賞には注目すべき点がいくつかある。そのひとつは、やはり配信作品の強さ。Netflix映画「ROMA/ローマ」が第91回アカデミー賞(2019年)で作品賞にノミネートされてからわずか3年。今回のアカデミー賞候補のラインアップを見ても、配信作品の強さが印象に残る。作品賞ノミネート作品は
 
「ベルファスト」
「コーダ あいのうた」
「ドント・ルック・アップ」
「ドライブ・マイ・カー」
「DUNE/デューン 砂の惑星」
「ドリームプラン」
「リコリス・ピザ」
「ナイトメア・アリー」
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」
「ウエスト・サイド・ストーリー」
 
の10本だが、そのうち「コーダ あいのうた」(Apple TV+)、「ドント・ルック・アップ」(Netflix)、「パワー・オブ・ザ・ドッグ」(Netflix)と3作品が配信作品。
 
さらに、俳優賞では「愛すべき夫妻の秘密」(Amazon)、「Tick,tick...BOOM!: チック、チック…ブーン!」(Netflix)、「マクベス」(Apple TV+とA24)、「ロスト・ドーター」(Netflix)と、さらに増える。日本国内においては「タミー・フェイの瞳」はディズニープラスでの配信スルーになったため、より「配信作品が席巻」の傾向が強い。もちろん、配信オンリーではなく劇場公開された作品もあるにはあるが、「劇場作品VS配信作品」の対立構造――ある種の敵対関係は、米アカデミー賞においては大分薄まっているようにも感じられる。


「パワー・オブ・ザ・ドッグ」Netflixで配信中

授賞式前に見られる作品増え、〝予習〟可能に

各候補における配信作品が増えたことで、我々日本に暮らす人々においても恩恵がもたらされた。それは、「授賞式までに多くの作品を見られる」ということ。さらに、授賞式の開催時期が例年より繰り下げられたことで、
 
「ベルファスト」→3月25日公開
「コーダ あいのうた」→公開中
「ドント・ルック・アップ」→Netflixで配信中
「ドライブ・マイ・カー」→公開済み
「DUNE/デューン 砂の惑星」→公開済み
「ドリームプラン」→公開中
「リコリス・ピザ」→初夏公開
「ナイトメア・アリー」→3月25日公開
「パワー・オブ・ザ・ドッグ」→Netflixで配信中
「ウエスト・サイド・ストーリー」→公開中
 
と、作品賞においては「リコリス・ピザ」以外は鑑賞できる状態に。前回の第93回アカデミー賞(21年)と比較すると、
 
「ノマドランド」→公開済み
「ファーザー」→公開前
「ユダ&ブラック・メシア」→日本未公開
「Mank/マンク」→Netflixで配信済み
「ミナリ」→公開済み
「プロミシング・ヤング・ウーマン」→公開前
「サウンド・オブ・メタル -聞こえるということ-」→Amazon Prime Videoで配信済み
「シカゴ7裁判」→Netflixで配信済み
 
という状態であり、授賞式の開催時期が新型コロナウイルスの影響で4月にまでずれ込んだことも考えると、今回はより主体的に(作品鑑賞済みという意味で)参加できるのではないだろうか。
 

「パワー・オブ・ザ・ドッグ」が最有力か

では、肝心の受賞予想だが、やはり作品賞の第1候補は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」だろう。1920年代のアメリカの大牧場を舞台に、経営者のもとに嫁いだ未亡人とその息子が、経営者の兄に嫌がらせを受けるのだが……という物語で、それぞれの関係性がどんどん変化していき、やがて衝撃的な展開を迎える。一見オールドスタイルの西部劇に見えるのだが、その中身は新世代が旧体制を破壊する内容にもなっており、映画史的にもエポックメーキングな作品といえよう。
 
本作は、これまで「ROMA/ローマ」が持っていた各映画賞の作品賞獲得数を超え、現段階でNetflix史上最多の作品賞獲得作品に。これだけでも十二分に「歴史を変えた」といえるのだが、もしアカデミー賞作品賞を受賞するとなれば、Netflix史上初の快挙となる。さらにいえば、これまではなかなか牙城を崩せなかった動画配信サービスが、ついに頂点の座を奪ったことにもなる。それはNetflix作品の「ドント・ルック・アップ」やApple TV+の「コーダ あいのうた」が作品賞を獲得しても同じだ。

ライター
SYO

SYO

1987年福井県生まれ。東京学芸大学にて映像・演劇表現を学んだのち、映画雑誌の編集プロダクション、映画WEBメディアでの勤務を経て2020年に独立。 映画・アニメ、ドラマを中心に、小説や漫画、音楽などエンタメ系全般のインタビュー、レビュー、コラム等を各メディアにて執筆。トークイベント、映画情報番組への出演も行う。

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