ロマン・デュリス=前田梨里子撮影

ロマン・デュリス=前田梨里子撮影

2023.3.07

「日本の映画も食べ物も大好き。秋には日本で撮影も」 久々来日のロマン・デュリス 「エッフェル塔 創造者の愛」主演

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勝田友巳

勝田友巳

フランスの人気俳優、ロマン・デュリス。セドリック・クラピッシュ監督の「スパニッシュ・アパートメント」「猫が行方不明」、ミシェル・アザナビシウス監督の「キャメラを止めるな!」など日本でもおなじみ。主演映画「エッフェル塔 創造者の愛」のプロモーションを兼ねて来日し、「日本にはいいイメージしかない」とリップサービス。
 

 

エッフェル塔の設計者ギュスターブ・エッフェルの隠された恋

「エッフェル塔」は、1889年のパリ万国博覧会のために建設されパリのシンボルとなったエッフェル塔の内幕を、事実と虚構を交えて描いた作品。設計者のギュスターブ・エッフェルが20代のころ、10歳年下のアドリエンヌ・ブールジュと恋愛関係にあったことと、塔建設に当初否定的だったエッフェルが突然翻心して熱中したという史実を結びつけた。エッフェルが熱意と工夫で困難を乗り越えて前代未聞の塔建設を進める姿と、アドリエンヌとの関係を深めていく様子が並行して描かれている。


 

19世紀の恋愛を現代の感性で

デュリスの元に脚本が持ち込まれたのは、撮影開始の2年前という。デュリスは「自由に書かれていると思った」と振り返る。「マルタンは伝記ものを古く見せたくないという意思を持っていて、モダンな物語を今の俳優で作りたいと考えていた」
 
若きアドリエンヌは、パンツをはいた奔放な女性として登場し、エッフェルと再会後も情熱的に行動する。「アドリエンヌの描き方も現代的で、当時にはあり得ないほど活発なフェミニストだった。恋愛の描き方は、『当時なら』ではなく『今の人たちなら』どうするかと考えていた」
 
エッフェルは当時、米国の自由の女神像の制作に関わったことで国民的な有名人だった。しかし巨大プロジェクトのエッフェル塔建設にあたっては反対運動も起き、地盤のもろさから工事は難航した。


「エッフェル 塔創造者の愛」で、エッフェルが恋に落ちるアドリエンヌ(エマ・マッキー)© 2021 VVZ Production – Pathé Films – Constantin Film Produktion – M6 Films.
 

史実をベースに感情を創作

「伝記を読むとエッフェルは、倉庫にも部品にも自分の名前を付けている。人からどう思われるか、ジャーナリズムの評価を気にする人だったようだ。塔建設の反対運動も心配していたと書かれていた」。自信家で名望家としての側面を映画でも示しつつ、アドリエンヌとの恋愛は全くの創作。別離から20年を経てアドリエンヌと再会したことが、塔建設のきっかけになったという見立てである。
 
「彼の人となりの情報は少ない。映像として残っているインタビューもあるけれど、自分とはだいぶ違う。でも実物に近づけようとは、監督も自分も考えていなかった。史実をベースにしつつ、感情はそこからインスピレーションを受けて創作していったんだ」
 
映画の企画は20年以上前に始まり、何人もの監督の名前が挙がっては消え、ようやくマルタン・ブルブロン監督でクランクイン。エッフェル塔の土台部分を実物大で再現する大がかりな撮影だったがコロナ禍に見舞われ、撮影中断の憂き目にも遭った。フランス映画としては破格の製作費を投じた大作だ。
 
「パリ郊外の空き地にセットを組んで、高さは30メートルぐらい。実物を想像できて助かった。予算がかかった大作だったのに、フランスではコロナ禍の観客が戻らない時期の公開だったのが残念」。それでも150万人を動員したという。


 

高い塔で神様に近づこうとするのかな

来日は2年ぶり。2023年秋には、日本で新作を撮影する予定とか。「日本で映画を撮るのは夢だったので、とても楽しみ。日本の映画も食べ物も、いいイメージしかない。若い人たちの好奇心が強いのも興味深い」
 
東京にはエッフェル塔より高い東京タワーと、世界で2番目の高さの東京スカイツリーもある。どうして人間は高い塔を建てたがるんでしょう。「うーん、神様に近づける気がするからかな。でもパリにはもう、規制が厳しくて塔は建てられないな。マンション建設だって反対を受けるよ」
 

ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

カメラマン
ひとしねま

前田梨里子

毎日新聞写真部カメラマン