「イ・ドゥナ!」より © 2023 Netflix,Inc.

「イ・ドゥナ!」より © 2023 Netflix,Inc.

2023.11.13

大ヒットした「愛の不時着」監督の新作ドラマ、ぺ・スジ主演のラブロマンス「イ・ドゥナ!」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

梅山富美子

梅山富美子

日本でも大ヒットしたドラマ「愛の不時着」の監督イ・ジョンヒョによる新作ドラマ「イ・ドゥナ!」(全9話)が、10月20日からNetflixで一挙配信されている。K-POPアイドルグループmiss Aのメンバーとして活躍したペ・スジが、トップアイドルを演じていることでも話題の作品だ。
 
韓国の人気ウェブトゥーン(韓国発祥のWEBマンガ)が原作の本作は、平凡な大学生と元トップアイドルの甘く切ない恋と青春を描く。
 
以下、本編ラストの内容に触れています。
 


シェアハウスを舞台に大学生と元アイドルの恋と青春を描く

シェアハウスで暮らし始めた大学生のウォンジュンは、突如表舞台から姿を消したアイドルグループ「ドリームスイート」の人気メンバー、イ・ドゥナの同居人となる。
 
ドゥナは、世間からの批判、誰も頼れる人がいない環境、操り人形のような日々に心が限界を迎えアイドルを辞めて日々をむなしく生きる。そんななか、これまで出会ったことのないタイプの真面目で誠実なウォンジュンのことが気になり、自身に芽生えた感情に気付かぬまま友人として彼に恋の指南をする。一方のウォンジュンは、毎日のように連絡を取り、思わせぶりな態度を取るドゥナに振り回されつつも、次第に彼女にひかれていく。
 
もろくて繊細で自由奔放なドゥナ役のペ・スジは、アイドル時代から俳優として活躍。映画「建築学概論」、ドラマ「ドリームハイ」「あなたが眠っている間に」「スタートアップ:夢の扉」などで注目を浴びてきた。着実に俳優としてキャリアアップを続けてきた彼女が、自身と同じ元アイドル、しかしとても複雑なドゥナという役に挑戦した。
 

元アイドルかつ複雑なキャラクターを、美しさと存在感とで見事に演じたぺ・スジ

本編では、ペ・スジの姫カットがとてつもなく可愛らしく、たばこを吸うシーンはむなしくも魅力的。ドゥナとしてまばたきをあまりしないように意識しているのか、超人的な美しさと同時に孤独や虚無感が引き出されている。さらに、ステージの上で歌い踊るシーンもあり、キレのあるダンスと人をひきつける歌唱を披露。このシーンだけでも、ドゥナ役はペ・スジしかいないと思わせる説得力がある。
 
ウォンジュン役のヤン・セジョン(「浪漫ドクター キム・サブ」「30だけど17です」)は、本作が除隊後初のドラマ。30歳とは思えないみずみずしさで、ウォンジュンの高校時代も自然に演じている。ウォンジュンは、高校時代から好きだったジンジュと再会した時や告白の返事にも冷静で、理性で感情を抑え込みがちな人物だが、ドゥナのことになると感情をむき出しにして思いをぶつける。
 
そんなウォンジュンの感情の振り幅をヤン・セジョンが見事に表現。一見平凡な青年に見えるが、やさしく情熱的な一面も持つウォンジュンをドゥナが好きになる理由も納得がいく。
 

「愛の不時着」イ・ジョンヒョ監督の演出は、王道な展開でも目が離せない

それにしても、最悪な出会い、距離を縮める出来事、壁ドン、すれ違い、恋のライバルの登場、2人の前に立ちはだかる大きな壁……と王道な展開ながらも目が離せないのは、「愛の不時着」「ロマンスは別冊付録」とヒット作を生み出してきたイ・ジョンヒョ監督の演出だからこそ。
 
まるで監督の手のひらで踊らされているかのように、ドゥナとウォンジュンの物語に翻弄(ほんろう)され続け、「次のエピソード」を見る手が止まらなくなる。
 
先ほど〝王道な展開〟と紹介したが、歌うことができなくなってしまったドゥナ、ウォンジュンの思い人で完璧に見えるジンジュの本当の姿、シェアハウスに住むことになるチェ・イラの恋愛など、一筋縄ではいかないことも。王道な展開との絶妙なバランスが視聴者の心を離さないのだろう。
 
なお、見る人によって結末を委ねるような本作のラストには、さまざまな意見があるところだろう(原作通りだったら、もっと議論になっていた可能性もあったかもしれない)。
 
ただ、ドゥナとウォンジュンがしあわせを感じられた瞬間がわずかでもあり、充実した今があるのなら、どんな未来を選ぼうとも続編を望むのは蛇足かもしれない。ただ、オープニングの日本で撮影された踏切シーンは、どちらも複雑な表情を浮かべており、不穏さを拭いきれずモヤモヤとした気持ちが残るところだろう。
 
「イ・ドゥナ!」はNetflixで配信中

ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。

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