「サムシクおじさん」より © 2024 Disney and its related entities

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2024.6.28

韓国の名優ソン・ガンホ初ドラマ作! ピョン・ヨハンら豪華な俳優たちとつむいだ重厚なドラマ「サムシクおじさん」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

梅山富美子

梅山富美子

韓国の名優ソン・ガンホが、57歳にして人生初のドラマに挑んだのはディズニープラスのオリジナルシリーズ「サムシクおじさん」(全16話)。1960年代の韓国を舞台に、激動の時代を生きた男たちの重厚な人間模様を描いている。
 


謎のフィクサーが野心あふれる青年(ピョン・ヨハン)と出会う

ソン・ガンホといえば、「JSA」「殺人の追憶」「グエムル-漢江の怪物-」「タクシー運転手 約束は海を越えて」と代表作を挙げたらきりがない、韓国の映画界で絶対的な地位を築いている俳優だ。ポン・ジュノ監督初の英語作品「スノーピアサー」、米アカデミー賞で作品賞を獲得した「パラサイト 半地下の家族」など韓国のみならず世界にその名を知られており、是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」では第75回カンヌ国際映画祭で韓国人初の男優賞を受賞した生粋の映画人なのである。
 
そんな映画一筋だったソン・ガンホが、初のドラマで演じたのは謎の政治フィクサー、パク・ドゥチル。戦争中も〝家族〟に毎日3食(サムシク)を与えたことから、〝サムシクおじさん〟の愛称で呼ばれている。
 
サムシクは政治家や有力者たちから頼まれた依頼を絶対に遂行し、貧しい者には食事やお金、時には仕事も与えるなど周囲からの信頼も厚い。しかし、深い縁がある国会議員カン・ソンミン(イ・ギュヒョン)からの要求がエスカレートしていることに難儀していた。そんななか、野心あふれる青年キム・サン(ピョン・ヨハン)と出会う。
 
「国を豊かにしたい」という心からの願いがこもったキム・サンの演説に感銘を受けたサムシクは、あの手この手でキム・サンを政治の世界へと勧誘。経済大国にするという夢のために奔走するキム・サンは、サムシクを怪しく思いながらも夢を実現するために彼と手を組むことに。しかし、計画への道のりは険しく、変革の時がやってくる。
 
ソン・ガンホは、サムシクを決して良い人として演じていない。サムシクは依頼や問題をお金や暴力で解決するし、誰にでも良い顔をする。笑っているのに笑っていない目からは本音が見えてこない。それでも、多くの人がサムシクに頼ってしまうのはなぜなのか……とキム・サンと同じように、視聴者もサムシクに引き込まれていく。怪しさとえたいの知れない魅力、この絶妙なさじ加減がソン・ガンホの真骨頂でもある。
 
第2話では、「ピザを食べたことがある」というサムシクを試すように、キム・サンが「ピザはどんな味か」と問いかける場面がある。サムシクのとぼけた反応と答えが秀逸で、緊張感がありつつも若干笑えるこの会話が後半で効いてくるのも見事だった。
 

歴史的背景を知って見るのがおすすめ

本作は、登場人物たちそれぞれに正義があり、正義の反対には別の正義があることを丁寧に描いているため、前半から中盤にかけてストーリーの抑揚がやや抑え気味。ドラマチックな盛り上がりはないものの、国のため、大義のため、野望のため、権力のため、と彼らの思惑がじわじわと交差して衝突する。
 
本作はフィクションでありながら60年当時を色濃く描いている。そのため、60年の大統領選挙の不正を受けての四月革命、そして翌年の軍事クーデターなど、歴史的な背景を知っておいたほうが(現実とドラマの違いはありつつも)、より物語の理解を深めることができそう。
 
それにしても、ソン・ガンホだけでなく、ピョン・ヨハン、イ・ギュヒョンのほか、「梨泰院クラス」のユ・ジェミョン、「エージェントなお仕事」のソ・ヒョヌ、ガールズグループ少女時代のティファニーことファン・ステファニー・ヤンなど俳優陣が豪華。重厚な物語を彩る登場人物のなかでも、割と若めのアン・ギチョル役のオ・スンフン、ハン・ス役のノ・ジェウォンが30代ながらもフレッシュな魅力が光った。
 
「サムシクおじさん」はディズニープラスのスターで独占配信中

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ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。

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