「ゼロデイ」より

「ゼロデイ」より© 2024 Netflix, Inc.

2025.2.26

《ネタバレ分析》サイバーテロVS元大統領!デ・ニーロの狂気芝居×衝撃連続の政治サスペンス「ゼロデイ」

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

筆者:

SYO

SYO

ロバート・デ・ニーロが主演・製作総指揮を務めた政治サスペンスドラマ「ゼロデイ」が2月20日にNetflixで配信された(全6話)。映画を中心に活動している名優デ・ニーロがドラマに出演するレア感、「全米に甚大な被害をもたらしたサイバーテロ犯を元大統領が追う」設定の面白さ等々も含めて配信前から話題に上っていた作品であり、日本でも早々にトップ10入り(テレビ番組部門)。本稿では前半(第3話まで)の内容を中心に、「ゼロデイ」の魅力や独自性を〝少々ネタバレあり〟で分析していきたい。


展開の早さと秀逸なアイデア、緩急の見事さで最後まで見せきる

まずは簡単なあらすじ。ある日突然、電子機器/システムが1分間ジャックされるサイバーテロ事件が発生。電車や自動車の衝突、飛行機の墜落等々の事故や大規模な停電、病院で医療機器が止まるなどの事態が次々に発生し、実に3402人もの死者が出てしまう。さらに、市民のスマホに「THIS WILL HAPPEN AGAIN(再び起こる)」と次なる攻撃をほのめかすメッセージが表示されたことから国内は大混乱に陥る。

隠居生活を送っていた元大統領のマレン(ロバート・デ・ニーロ)は元部下のロジャー(ジェシー・プレモンス)の求めに応じて事故現場を弔問。その際に力強いスピーチで荒ぶる市民を鎮める姿が拡散され、事態を収拾する救世主として特別対策委員会のリーダーを託されるのだった。

「ゼロデイ」の面白さは、第一にシリアスな犯罪捜査もの×ダークな政治劇×陰謀渦巻くポリティカルサスペンスであろう。「サイバー犯罪」という題材自体はもはや目新しいものではないが、ただ真相を追う謎解き要素だけでなく、政治家や諜報(ちょうほう)員、裏社会の住人たち等々のさまざまな思惑が絡んだ知略戦が並行して展開し、各登場人物の秘密や裏の顔が徐々に明かされていく(ロジャーの素性がなかなか明かされない仕掛けも秀逸だ)。

かつ、序盤から伏線を多数仕込むだけでなく、毎エピソードのラストには衝撃的な引き(クリフハンガー)が用意されており、緊迫感を途切れさせずにハイテンポに物語が進行する。

例えば、最序盤で登場した「こいつらが犯人か?」と思わせるハッカー集団は早々に殺害され、関係性を疑われたGRU(ロシア連邦軍参謀本部情報総局)の工作員も内々に始末される。もう少しじっくりと見せてもよさそうな作劇上のブラフ=まき餌をスピーディーに回収してしまうのだ。

アメリカ製の政治サスペンスといえば敵がロシアや中東であることは多く、「やっぱり今回もロシアか」と早合点してしまう視聴者の心理を先回りするような筋書きになっており、展開の早さ&予想を裏切ってくるアイデアが絶妙だ。

と同時に、「zero day+●(日数)」といったテロップを入れることで真犯人になかなかたどり着かないじれったさを演出し、銀行のシステムがハックされて預金が引き出せなくなり暴動が起こる等の新たな事件を投入して混乱ぶりをあおる。視聴者が経験する実時間は2時間強だが、劇中では数週間が経過しているという「見やすさ」と「捜査の行き詰まり」を両立させるアプローチが実に効いている。

じわじわとロジャーに身の危険が迫るシーンではじっくりと腰を据えて見せつつ、第1話の序盤で車が電車にはねられるシーンや第2話で工作員が殺害されるシーンなど意表を突いたショッキングな演出を適度に挟み込み、緩急をキープ。人気ドラマ「HOMELAND」で知られるサスペンスの名手、レスリー・リンカ・グラッター監督の手腕がいかんなく発揮されている。

ただ、これらは言ってしまえば「犯人は誰だ?」の一点突破を盛り上げるための演出だ。2時間の映画ならまだ可能であっても、1話約1時間×6話を完走させるにはもう何種か武器を仕込んでおきたいところ。Netflixは全話一挙配信システムで知られているが、競争率がすさまじいコンテンツ過多の現代では視聴者はどうやっても飽きやすくなり、興味を引き続けるには相当の創意工夫が必要になるからだ。

では「ゼロデイ」はどんな手段を用いているのか? それはクリフハンガーとも絡めた「認識が書き換わる」サプライズだ。第1話の序盤は「部屋に籠もったマレンがドアを蹴破ろうとしている何者かにおびえながら書類を探す」シーンから始まるが、後からそれは違う意味合いの作品だったとわかる。

第2話ではしびれを切らした現大統領のミッチェル(アンジェラ・バセット)が「ロシアの石油精製所に報復を仕掛ける」と宣言するシーンが登場するが、それは本番前のリハーサルだった——と明かされる。先に述べた容疑者が早々に退場する展開含めて、視聴者の予想や反応を逆手に取った導線が引かれているのだ。


名優ロバート・デ・ニーロのすごみある演技

そして——本作の最大の武器は、やはりロバート・デ・ニーロ。人物面と演技面の両方で特筆すべきポイントがある。マレンの人物面でいうと、第1話の最後に判明する「実は記憶と精神に問題があるのではないか?」によって、主人公が一気に信用・信頼できなくなる〝突き落とし〟が衝撃的。

委員会のリーダーは越権行為も辞さないパワーを有するポジションであるため、冷静かつ高潔な人物であるマレンに白羽の矢が立ったはずだが……その前提が根本から崩されてしまうのだ(これらの症状は加齢によって生じるものかと思いきや……?という新たな謎も追加される)。

また、マレンは初登場時こそ清廉潔白な英雄視をされているが、徐々に過去に部下と不倫関係にあったこと、記憶に蓋(ふた)をしている息子の死の真相(ある曲がキーワードになっている)等々の情報が小出しにされていき、彼に対する印象が変わるにしたがって狂気性が顔を出していく構成もうまい。

元検事のマレンは最初こそ「特例で令状はいらない」状況でもきっちりと従来通りの手続きを踏もうとし、人道にもとる行為は決して取らないように部下たちに言い含めているが、自身に攻撃的な発言を繰り返す番組出演者グリーン(ダン・スティーブンス)が怪しいとみるや逮捕・拘束・脅迫・拷問をちゅうちょなく行う。

激高したり泣き叫んだりするような激しい芝居ではなく、静かな中にもひょう変ぶりを見せるデ・ニーロの〝怖さ〟によって、視聴者も含めた周囲がひと時も安心できない作品になっていくこと——「ゼロデイ」の〝魅了する〟緊迫感は設定・構成・物語・演出・芝居といった各部署の優れたパフォーマンスが結集した総合力の高さゆえだろう。また、犯人を突き止めたからといって「事件解決! めでたしめでたし」と終わらない点も付け加えておきたい。

最終的には現実社会ともリンクするような〝政治家の在り方とは〟を問うテーマに帰結し、デ・ニーロの芝居もまた狂気性から次なるベクトルへと変化していく。いま、この物語を世に放つことの意味と意義を感じられる作品になっているのだ。

海外ドラマかいわいでは2025年は「ストレンジャー・シングス」や「イカゲーム」、「THE LAST OF US」等々、人気シリーズの最新シーズンラッシュイヤーだが、本作や前年に旋風を起こした「私のトナカイちゃん」のように初登場となるオリジナル作品の台頭にも期待したい。

Netflixシリーズ「ゼロデイ」は独占配信中。

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