「もうすぐ死にます」より © 2023 TVING

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2024.1.13

生きる意味を巧みな脚本で問うた、豪華キャスト出演の韓国ドラマ「もうすぐ死にます」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、大野友嘉子、梅山富美子の3人に加え、各ジャンルの精鋭たちが不定期で寄稿します。

梅山富美子

梅山富美子

2024年も韓国ドラマが見逃せない。Amazon Prime Videoで配信中の「もうすぐ死にます」は一見物騒なタイトルだが、生きる意味を問うドラマとなっている(以下、本編の内容に触れています)。
 


「死を軽んじた」罰が与えられた、死んだはずの主人公が死に向き合う様子を描く

 本作は、韓国のウェブトゥーン(韓国発祥のWEBマンガ)が原作。主人公のチェ・イジェ(ソ・イングク)は、就職活動がうまくいかず追い討ちをかけるような災難が続き、絶望のなかビルの屋上から飛び降りた。しかし、死んだはずのイジェの前に、〝死〟(パク・ソダム)が現れ、死を軽んじたとして「いずれ死ぬ12人の体に乗り移る」という罰を受けることとなる。
 
地獄行きを免れるためイジェは、乳児、殺人鬼、刑事、ホームレスなど12人の体に乗り移る。最初は訳もわからぬまま死を迎え続けるが、次第に乗り移った人物が死なないようにと奔走する。死にたくなくても死んでしまったり、死を回避したと思っても殺されたり、やがてお金に対する欲が芽生えたり、正義感に目覚めたりと多くの人生を経験して、紆余(うよ)曲折ありながらもイジェが死に対して真正面から向き合う様子が描かれる。
 
乗り移った人物を演じたのは、イ・ジェウク(「還魂」)、イ・ドヒョン(ザ・グローリー 〜輝かしき復讐〜」)、キム・ジェウク(「彼女の私生活」)、ソンフン(「結婚作詞 離婚作曲」)、チェ・シウォン(「彼女はキレイだった」)、オ・ジョンセ(「サイコだけど大丈夫」)、チャン・スンジョ(「模範刑事」)など主役級がずらり。
 
この豪華キャスト陣が第1話からさまざまな死に様を見せるのだが、およそ4分の出演シーンであっけなく死を迎えてしまう人物も。普段ドラマのメインを張る俳優の一瞬の退場劇は衝撃的で、容赦ない展開に思わず身構える。
 
さらに、12人の死に関わる人物として、ユ・インス(「還魂」)、キム・ジフン(「その恋、断固お断りします」)が登場。ユ・インス演じるイ・ジンサンの小心者っぷり、財閥の長男パク・テウ役のキム・ジフンのえたいの知れない狂人っぷりも見どころだろう。
 

ウェブトゥーンの原作を巧みに脚色、キャスティングの見事さも魅力

 本作は、主人公であるイジェが別の人物に乗り移った姿で物語が進むため、イジェ役のソ・イングクの登場シーンが少ないエピソードも。それでも、ソ・イングクはわずかなシーンでイジェの心情を大胆に繊細に表現。第1話の心の限界を迎えた様子、愛する人を思い号泣する姿は涙を誘う。
 
また、イジェに罰を与える〝死〟役のパク・ソダムは、米アカデミー賞作品賞を受賞した「パラサイト 半地下の家族」(19年)で、お金持ち一家に寄生する家族の長女役で知られる。
 
これからの活躍に期待がかかるなか、21年12月に甲状腺乳頭がんの手術をしたことを発表し、23年1月に復帰した。「もうすぐ死にます」は、20年の「青春の記録」以来のドラマ出演であり、死を通じて生きる意味をイジェに問い続けるセリフは復帰したパク・ソダムだからこそ深く胸に響く。
 
それぞれキャスティングが見事にハマっている本作だが、イジェの母親役のキム・ミギョンは今作のなかでも最高の演技と言っても過言ではないだろう。息子を失い、悲しみに打ちひしがれ空虚な日々を送る演技は圧巻。特に最終話(第8話)は、これまでの物語の積み重ねにより、山をゆっくりと登る、ただそれだけのシーンに魂が揺さぶられる。
 
ここまでキャストについて言及してきたが、脚本と構成の巧みさは韓ドラでも屈指。接点のなかった12人が、イジェによって点と点がつながり伏線回収していくさまはお見事としか言いようがない。そして、死ぬことを選んでしまったイジェが、最後にたどり着いた答えはひねらずまっすぐだったのも本作の良さだろう。
 
「もうすぐ死にます」はAmazon Prime Videoで配信中。

ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。

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