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2022.4.24
サスペンスオンラインの森:「ステーション・イレブン」 ポスト・パンデミックの世界を描くSFサスペンス
コロナ禍のその後を予見?
2020年4月にCOVID-19の感染拡大防止のために緊急事態宣言が発令されて、日常生活が大きな変化を強いられた頃、「このことを予見していた」と話題になったのが、11年に公開されたスティーブン・ソダーバーグ監督の「コンテイジョン」だった。20年の1〜3月にカナダで放映された連続ドラマ「アウトブレイク 感染拡大」もまた、モントリオールを舞台に架空の新型コロナウイルス〝CoVA(コバ)〟が蔓延(まんえん)していくストーリーだった(日本では22年7月に配信開始)。これら二つのパニックスリラーはいずれも、パンデミックが発生したことで人々や社会、世界がパニックに陥るさまを描くスリラーだ。コロナ禍の始まりから現在までの2年以上もの年月を経験してから見返しても、発生する出来事の共通点の多さには驚くばかりだ。
22年4月29日に、U-NEXTで全10話が一挙配信される「ステーション・イレブン」も新型ウイルスによるパンデミックを扱うドラマとして話題だが、先の2作品との大きな違いは、人類の大半が死滅し文明が崩壊してから20年後の世界を描いている点だ。14年に刊行されたエミリー・セントジョンマンデルによる同名小説が、企画&製作総指揮のパトリック・サマービルにより「生き残りをかけたサバイバル、登場人物たちの過去が複雑に絡み合うサスペンス、そして、失われたものを大切にしながら、新たな世界を創造しようとする人々の再生のメッセージを含んだ『現代の物語』として生まれ変わ」(以上プレス資料より引用)ったという。
楽園から地獄絵図へ 終わりの始まり
第1話のファーストショットは、光が差し込み緑が生い茂った廃虚のような場所。一匹の豚が水たまりの水を飲んでいる。そこには命があり、楽園のようでもある。ジャンプショットで時間が巻き戻るとそこが劇場だとわかる。舞台では「リア王」が上演されており、リア王を演じるハリウッド俳優のアーサー・リアンダー(ガエル・ガルシア・ベルナル)が雪の降るシーンで突然倒れて息を引き取る。それがパンデミックの始まりだったのだ。
アーサーの異変にいち早く気付いて客席から駆け寄ったのは、ライターのジーバン(ヒメーシュ・パテル)。一部始終を舞台袖で見ていた子役のキルステン(マチルダ・ローラー)を成り行きで家まで送り届ける途中で、医療従事者の姉シヤからの電話を受ける。「ニュースを信じるな」「インフルエンザが変異したウイルスが蔓延している」「誰とも接触するな」「(ジーバンの)きょうだいのフランクの家へ行って一歩も外へ出るな」と強く警告され、死を覚悟したシヤから別れを告げられたジーバンは、キルステンを連れて作家のフランクが暮らすタワーマンションの47階に引きこもる。そして、大人になったキルステン(マッケンジー・デイビス)が、アーサーからもらったSF漫画「ステーション・イレブン」のページをめくっているシーンで第1話は終わる。
パンデミックから20年 芸術は死なず
第1話はクリスマスシーズンのシカゴで展開する。巨大スーパーマーケットの無人の売り場と患者であふれかえる病院の対比、タワーマンションの窓ギリギリを、機体を傾斜させながら墜落する旅客機など、世界の終わりを暗喩的に表現するショットが素晴らしい。なによりも暗示的なのは、アーサーの死体と舞台全体に雪が降り続ける様子を引きの真俯瞰(まふかん)から捉えた寒々しいショット。これが意味するのはパンデミックによる芸術(文化)の死。しかし20年後、28歳になったキルステンは旅の楽団に参加し、シェークスピアを演じ続けている。芸術は死んでいなかったのだ。第2話ではシカゴを望む湖畔での生活(いわば「新しい生活様式」)や、旅の楽団の人間模様が描かれ、キルステンの回想シーンによりこの20年の出来事が少しずつ明かされていく。
20年1月に撮影が始まり、現実のパンデミックによる撮影中断などを経て、21年7月に本作は完成した。原作はもちろんドラマの骨組みもパンデミック前に誕生していたわけで、本作もまた現実がフィクションを後追いする形になっている。これから第10話まで時制を行き来しながら、ちりばめられた伏線がどう回収され、SF漫画「ステーション・イレブン」の謎が解き明かされるのかが、ただただ楽しみ。強く聡明(そうめい)なまなざしを持つマチルダ・ローラーとマッケンジー・デイビスが演じるキルステンも魅力的だ。我々が緊急事態宣言下で痛感した、文化や芸術、エンターテインメントがなければ人間は生きていけないという思想を体現するキルステンの活躍に期待が高まる。
4月29日から、U-NEXTで見放題独占配信。