毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。
2023.1.27
「ピンク・クラウド」
人間を10秒で死に至らしめるピンク色の雲が世界中で発生。偶然行きずりの関係を持ったジョヴァナ(ヘナタ・ジ・レリス)とヤーゴ(エドゥアルド・メンドンサ)は、窓を閉めきったアパートの一室で共同生活を送ることに。やがて月日が流れ、2人の間には子供が誕生するが……。
新人のイウリ・ジェルバーゼ監督が、新型コロナウイルス禍以前に脚本執筆、撮影をしたブラジル映画。にもかかわらず、似た設定のディザスター系のサバイバル映画とは一線を画し、コロナ禍のロックダウン生活を予見したような内容になっていて面白い。長期にわたって外出などの自由を制限された人間は、いかなる影響を被るのか。主人公2人の不安と孤独、価値観や適応力の違いをあぶり出す描写は、繊細にしてリアル。舞台は全編アパート内に限定され、外界の混乱ぶりも雲の謎解きも描かれないが、スクリーンを染める淡いピンクカラーがもたらす奇妙で憂鬱な感覚は、新鮮な映画体験となるだろう。1時間43分。東京・新宿シネマカリテ、大阪・シネ・リーブル梅田ほか。(諭)
異論あり
もはやこの設定を非現実的とは捉えられないため、リモートワークができずに1人で暮らす人の収入源や支援は?など細部が気になってしまった。一方、隔離生活に快適さを感じる者と自由を求めて外に出たいと思う者との対比によって、人生観があらわになる描写は実にリアル。(細)