「仏教の次に映画が大好き」という、京都・大行寺(だいぎょうじ)住職の英月(えいげつ)さんが、僧侶の視点から新作映画を紹介。悩みを抱えた人間たちへの、お釈迦(しゃか)様のメッセージを読み解きます。
2024.12.20
「リトル・ワンダーズ」 フィルムがつむぐ子どものわくわく:英月の極楽シネマ
子どもの頃、湯船の中で「サメが出てくるのではないか」とおびえていたなんて、今となっては荒唐無稽(むけい)な話です。しかし湯船だけでなく押し入れや蔵、夜の闇、床の間に掛けられたお軸、ありとあらゆるものが空想の種となっていました。そんな「子どもの世界」、言い換えるなら「子どもの視点」が私にもあったことを、この映画を見て思い出しました。だからでしょうか、スクリーンからは懐かしさが伝わってきます。デジタルではなく16ミリフィルムで撮影されたことも相まって、レトロな雰囲気が漂います。
映画は、アリス(フィービー・フェロ)、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)、ジョディ(スカイラー・ピーターズ)の「悪ガキ」3人で結成された〝不死身のワニ団〟が、ゲーム機を手に入れたところから始まります。遊ぶためにママと交わした条件は、ブルーベリーパイを作ること。早速スーパーに行きますが、最後の1パックだった卵を謎の男に横取りされます。男を追いかけた3人がたどり着いたのは「魔女」(リオ・ティプトン)が支配する〝魔法の剣一味〟のアジト。卵が欲しかっただけなのに、魔女たちの計画に巻き込まれてしまった3人。電波も届かない森の中に連れてこられ、絶体絶命に。そこに魔女の娘、妖精のようなペタル(ローレライ・モート)が登場します。
冒険、友情、魔法など、わくわくするものがギュッと詰まっていますが、大人の視点で見れば、「冒険」は危険なこと、「友情」も永遠ではなく、そもそも「魔法」は存在しません。同じものを見ても、世界が一変するのです。今、私が見ているものも、一つの視点に過ぎないと知らされた思いがしました。