「タッカンジョン」より © 2024 Netflix,Inc.

「タッカンジョン」より © 2024 Netflix,Inc.

2024.3.26

娘が唐揚げに!? 設定が奇抜なだけじゃないコメディードラマ「タッカンジョン」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

梅山富美子

梅山富美子

謎のマシンでタッカンジョン(甘辛ソースを絡めた唐揚げ)になってしまった娘を、父親と彼女に思いを寄せる男が救い出そうとする奇想天外な韓国ドラマ「タッカンジョン」(全10話)が、Netflixで配信されている。コメディーにミステリー、アクションもあり、そして親子愛に泣かされ……とまったく想像のつかない中毒性のある物語となっている(以下、本編の内容に触れています)。
 

謎のマシンで娘が唐揚げ(タッカンジョン)になり、父は娘を取り戻すため奔走

本作の原作は、韓国の人気ウェブトゥーン(韓国発祥のWEBマンガ)。小さな会社・モドゥン機械を営む社長のチェ・ソンマン(リュ・スンリョン)と、彼のもとで働くインターン、コ・ペクジュン(アン・ジェホン)のもとに謎のマシンが届いたことから物語は展開する。
 
ソンマンの愛娘ミナ(キム・ユジョン)は、差し入れでタッカンジョンを持って父親の会社を訪問。そこで、謎のマシンを疲労回復の機械だと勘違いして、中に入ってスイッチを押してしまう。床に落ちたタッカンジョンに気を取られたその瞬間、ミナの姿は消えてタッカンジョンがひとつ……。
 
ソンマンとペクジュンは、ミナを取り戻すために奔走。紆余(うよ)曲折ありながらも、謎のマシンを会社に届けた男、ミナが差し入れをしたお店・白丁(ペクジョン)タッカンジョンの怪しい店員たち、マシンに執着して行方不明になったユ・イヌウォン博士とそのおいのユ・テマンにたどり着く。ミナとマシンをめぐる物語は、時を超え、さらには地球をも超えていく。
 
シュールな笑いがクセになる本作。独特な間合いとセリフの言い回しで繰り広げられる会話劇は、気づいたらずっと見ていたくなるほど病みつきに。頭だけタッカンジョン姿のミナが登場したり、ミナと普通のタッカンジョンが混ざってしまったり。メスでタッカンジョンを切ると血が噴き出るなど、ブラックユーモアも随所に効いている。
 
ほかにも、謎のマシンが想像したものに姿を変える機械だと考えたペクジュンが、マシンの中で「チャウヌ〜!!」と人気俳優の名前を絶叫。後半のあるキャラクターたちは、ソンマンたちを威嚇するために人間にとって一番怖いものを表現し、ある1人が〝地球最強〟なものとしてBTSとつぶやきながらダンスする。それぞれ登場人物たちが真剣だからこそ、余計に思わず噴き出してしまうような場面も。
 
第1話のラストのタッカンジョンが少しだけ動くシーンは「インセプション」、ミナが異次元から眺めている、とソンマンたちが妄想するシーンでは「インターステラー」を彷彿(ほうふつ)させるなど、小ネタも満載。オープニングのアニメーションも本作の世界観を引き立てており、タイトルは「Chicken Nugget(チキンナゲット)」と英語でも表示され、じわじわと込み上げてくるものがある。
 

笑いの中に風刺が込められ、ただのコメディーではない

コメディー色が強いこの奇天烈(きてれつ)な物語も、「7番房の奇跡」「ムービング」のリュ・スンリョン、「マスクガール」のアン・ジェホン、「マイ・デーモン」のキム・ユジョンと主役級の俳優たちの演技にかかれば、感動が生まれるから不思議だ。リュ・スンリョンの娘を思う父親の演技、アン・ジェホンの愛する人を思う純粋な気持ちは涙を誘う。
 
本作には、「イカゲーム」のチョン・ホヨン、「ユミの細胞たち2」のジニョン(GOT7)が登場するなど、わずかな出演のキャストも豪華だ。
 
また、笑いの中に「ひとはなぜ争い戦うのか?」というハッとさせられるようなテーマも描かれる本作。第9話は、争うことの愚かさと醜さについての風刺が込められ、ただのコメディーに終わらない。
 
本作はとにかくテンポが良く、開始13分でミナはタッカンジョンになり、次々と強烈なキャラクターが登場。各エピソードのラストは続きが気になるような演出で、1話約30分で全10話と、ほかの韓国ドラマに比べて気軽に見やすいのも特徴だ。
 
「タッカンジョン」はNetflixで独占配信中

ライター
梅山富美子

梅山富美子

うめやま・ふみこ ライター。1992年生まれ。日本大学芸術学部映画学科卒業後、映像制作会社(プロダクション・マネージャー)を経験。映画情報サイト「シネマトゥデイ」元編集部。映画、海外ドラマ、洋楽(特に80年代)をこよなく愛し、韓ドラは2020年以降どハマり。