ライトハウス  © 2019 A24 Films LLC. All Rights Reserved.

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2021.7.08

ライトハウス 希望のともしびなき悪夢

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

映画で描かれる〝灯台〟という場所は、人間の孤独や地の果てといったイメージを喚起する。魔女もののホラー映画「ウィッチ」で注目された米インディーズの新鋭監督ロバート・エガースの長編第2作は、19世紀末の米ニューイングランド沖に浮かぶ孤島を舞台にした異常心理スリラー。孤独を超えた狂気、地の果ての先の地獄を見る者にのぞかせる怪作である。

登場人物はベテラン灯台守ウェイク(ウィレム・デフォー)と、助手ウィンズロー(ロバート・パティンソン)のほぼ2人だけ。若く内向的なウィンズローは、灯台の劣悪な環境と重労働、ウェイクのパワハラに苦しみ、現実と悪夢の境目を失っていく。見る者はそんなウィンズローの視点で彼の鬱屈した性的ストレスを感じ、人魚や怪物の幻影を目撃する。片目のカモメの執拗(しつよう)な攻撃も恐ろしい。

35㍉白黒フィルム、スタンダードサイズという古典的なフォーマットを採用した映像のこだわりも尋常ではない。妖美を極めた光と影のコントラスト、神経を逆なでする音響。希望や幸せなどどこにも見当たらない暗黒の灯台奇譚(きたん)、物好きな人限定で推薦する。1時間49分。東京・TOHOシネマズ シャンテ、大阪ステーションシティシネマほか。(諭)