パク・ボゴムのキッチンカー @파랑새커피트럭 PARANGSAE

パク・ボゴムのキッチンカー @파랑새커피트럭 PARANGSAE

2023.4.30

自分の推しを応援するためキッチンカーを派遣! 韓国ロケ飯事情

3度の飯より映画が好きという人も、飯がうまければさらに映画が好きになる。 撮影現場、スクリーンの中、映画館のコンフェクショナリーなどなど、映画と食のベストマリッジを追求したコラムです。

金光英実

金光英実

今年1月、韓国イベント「KROSS vol.1-kpop masterz-」が名古屋で開催された。韓国の人気アーティストや俳優たちが参加してイベントは大盛況に終わったという。
 
このイベントに制作スタッフとして参加した友人から、私のSNSに写真が届いた。ランチとして提供されたお弁当の写真。イベントに参加していたパク・ソジュンの写真入りのみそかつロールだった。きっとパク・ソジュンご本人がスタッフの労をねぎらって配った差し入れだろう。
 
これはイベントでの話だが、韓国ではロケ現場でもこのように、主演クラスの俳優がスタッフを気遣って自費でお弁当を配ることがよくある。それだけでなくキッチンカーやコーヒーカーなどを業者に頼んで設置し、提供することも多い。
 
韓国のドラマや映画の撮影は日本以上にハードだ。連続ドラマはミニシリーズの場合でも全16話(最近は12話も多い)、週に2話連続で放送される。放送直前まで撮影や編集をしているケースも多い。
 
そんな超過密スケジュールをこなさなくてはならないから、俳優やスタッフは食堂まで食べに行く余裕がないケースも多い。また、食堂が近くにないへんぴな地域で撮影が行われることもある。そんなときはロケ現場にパプチャと呼ばれるケータリングカーが設置される。お弁当と違ってごはんやおかず、スープなど温かい料理をその場で食べられる。
 
ケータリングカーは通常、制作側が用意するもの。そしてこれ以外に、主演クラスの俳優たちがオシャレで豪華なお弁当やキッチンカーを提供することで現場の人々のおなかは満たされる。
 
これに加えて、近年では俳優のファンがロケ現場に、俳優たちの写真や応援バナーを添えたコーヒーカーやキッチンカーなどを提供するようになった。自分の推しを応援するためだ。これはカツカツの予算でやりくりしている制作側にとってもありがたいことだそう。

 では、ファンからのキッチンカーは、どのくらいの頻度で現場に送られるのだろうか。現在、韓国の地上波SBSのドラマを撮影している現場スタッフに話を聞いたところ、週に1回くらい、と答えが返ってきた。ただし、多いときは1日に2~3回送られてくることもあるのだとか。
 
同スタッフによると「最も多く送られてくるのはコーヒーカー。クッキーなどの甘いお菓子やおやつなんかも主流ですね。ホットドッグのように軽く食べられるものも時々来て、小腹がすいたときには助かります」。

パク・ボゴムの顔がプリントされた軽食 @파랑새커피트럭 PARANGSAE
 
スタッフや俳優も、ファンのこうした気遣いをとても喜んでいるという。「俳優たちもファンたちから届くとすごくうれしいと言っています。来ないと寂しいな、みたいなことをほのめかすこともあって」
 
韓国のファンの世界は独特で、どのスターにもたいてい〝マスター〟と呼ばれるファン中のファンがいる。キッチンカーの差し入れは、ファンからお金を集めたマスターを通じて用意されることが多い。個人でも差し入れは可能だが、スターのスケジュールを確認して許可を取ったり、業者に連絡したり、現場に設置するバナー用の写真を用意したりと、けっこう忙しい。韓国語ができないファンにはハードルが高い。
 
差し入れ現場に関する情報を知りたくて、コーヒーカーやキッチンカーを現場に届けている業者「パランセコーヒートラック」に聞いてみた。しかし、どこのロケ現場にいつ差し入れを送る、などの詳しい情報は教えられないとのことだった。
 
「余談ですが、最近、ある男性俳優に差し入れたキッチンカーの写真をSNSで公開させてもらいました。以前はNGだったんですよ。でも、その俳優さんが新しく移った事務所は〝ファンにもっと親しみやすいイメージにしたい〟というスタンスのようで、公開を許可してくれました」と現場の様子を教えてくれた。
 
ちなみに、俳優やスターなど仲間同士も、キッチンカーやお弁当をロケ現場に送り合い、自分たちの仲の良さを誇示したり、ドラマがヒットするよう応援したりしている。BTSのジョングクがヨ・ジングに、ソン・ユナがソン・イェジンに、IUがイ・ジュンギに送るなど、スター同士の差し入れが話題になれば、ドラマや映画はさらに注目を浴びることになる。
 
表向きは俳優同士が送っていることになっているが、その資金はファンたちが出しているケースもあるという裏話も聞いた。もちろんファンたちは推しの役に立てるのならそれで満足だからよいのだろう。
 
長年の韓流スターのファンであるゆうさん(42)に、キッチンカーを差し入れしたことがあるかと聞いた。「自分の推し以外のスターに差し入れが入るのを見ると、自分の推しにもしてあげたいという気持ちになります。だから私もお金を払ったことがありますよ。5000円くらいですが」。推し活中の何人かに聞いてみたら、たいてい差し入れに参加したことがあるとの返事が返ってきた。
 
このように、制作側が用意するケータリングカー、主演クラスの俳優が提供するお弁当やキッチンカー、ファンあるいは俳優や歌手などの同業者が差し入れるキッチンカーやコーヒーカーなど、現場には多くの人々の気持ちが送られてくる。このような励ましがあるからこそ、ハードスケジュールのなか、俳優もスタッフもきつい現場を乗り切れるのかもしれない。
 
最近ではタイのロケ現場でも、韓国のようにファンたちがキッチンカーを差し入れるケースが増えてきていると聞いた。今後、韓国のキッチンカー文化は世界に広がっていきそうだ。

ライター
金光英実

金光英実

かねみつひでみ 翻訳家。静岡県出身、韓国ソウル在住。韓国ドラマ・映画・書籍などの翻訳をライフワークとしている。映画(特にサスペンス)が好きで、毎週末ソウルの映画館に通う(しかし疲れて寝ることも)。趣味はお酒を飲むこと、オカメインコかぶりのお世話。翻訳書に「グッドライフ」(小学館)、「帰属財産研究」(文藝春秋)、著書に「ためぐち韓国語」(四方田犬彦と共著、平凡社)、「韓国語ネイティブ単語集」(扶桑社)などがある。