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「カウンターアタック」より© 2025 Netflix, Inc.
2025.3.17
戦場の根源的緊張感を体感させる、メキシコ発サバイバルアクションスリラー「カウンターアタック」
緊迫の銃撃戦に始まるNetflixの新たな話題作―——「カウンターアタック」が配信中だ。今作はメキシコの映像作家チャバ・カルタスが手がけた最新作だ。日本の観客にとってはなじみの薄い監督かもしれないが、カルタスはすでに10本を超える劇場映画・テレビ映画を世に送り出し、多くのテレビシリーズも手がけてきた実績を持つフィルムメーカーである。
冒頭からすさまじい戦闘シーン
「カウンターアタック」の冒頭シーンは、まさに視聴者への宣戦布告だ。物語は一切の前置きなく、見る者を戦場へとたたき込む。突如炸裂(さくれつ)する銃声、車のドアも利用して繰り広げられる命がけのもみ合い、耳を貫く生々しい銃撃音、肉体がぶつかり合う鈍い衝撃音。観客は息をつく間もなく、極限の緊張感に包まれる。
これほどまでに躊躇(ちゅうちょ)なく、冒頭から全力の戦闘シーンを投げ入れてくる作品は稀有(けう)だ。カルタス監督は大胆にもこの激烈なアクションから物語を始め、「72時間前……」と3日分の時間を巻き戻すという手法を用いることで、一気に観客を映画の世界へと引きずり込む。その演出力と計算されたインパクトは、作品全体を通じて鮮烈な余韻を残し続けた。
冒頭から示唆されていたように、「カウンターアタック」が真骨頂とするのは、死の影が常につきまとう緊迫の戦闘シーンだ。この作品は虚飾を排した直球勝負のサバイバルアクションスリラーとして、見る者に「次に死ぬのは敵か味方か」というスリル、「いつ誰が死んでもおかしくない」という戦場の根源的な恐怖を突きつける。
敵味方の区別なく、予告もなく襲いかかるヘッドショット――それは複数の登場人物を一瞬にして命の舞台から退場させていく。この冷徹な演出は、抗争と暗殺が日常となった世界での「死」の無情さを雄弁に物語る。そこには美化も脚色もなく、ただ冷淡で残酷な現実だけが横たわっている。物語世界では、報復と復讐(ふくしゅう)、そして掃討作戦が淡々と繰り返され、人命が数字のように消費される。その容赦なさこそが、この作品の真実味を際立たせているのだ。
徹底して追求されたリアルな空気感
視覚的なコントラストもまた、この作品を独特のものに仕立て上げている。撮影陣が自然光を巧みに活用したであろう撮影は、空が一面に広がるメキシコの雄大な風景を息をのむほど美しい映像に昇華しながら、一転して光の届かない狭く暗い室内での緊迫の潜入作戦とのコントラストで、強い緩急を演出した。さらに、風の音や遠くの機械音といった環境音も細部まで丁寧にミックスされており、作り手たちが徹底してリアルな空気感を追求、視聴者に体験させようと励んでいることが伝わってくる。
確かに今作には、「エリート特殊部隊にしては安全確認が甘すぎるのでは?」と首をかしげたくなるようなシーンも存在する。細部へのこだわりに欠ける瞬間がないわけではなく、ストーリー展開上の都合が透けて見える場面もある。しかし、メキシコ発のサバイバルアクションスリラーとして、「カウンターアタック」が持つ独特の雰囲気と緊張感、そして力強い演出は、最後まで見る者の心を離さない魅力として機能している。視聴者は次第に物語・戦闘の渦中へと引き込まれ、登場人物たちと共に息をひそめ、彼らの運命に一喜一憂することになるだろう。
手に汗握る極限状態の戦いへの没入体験を提供してくれる作品として記憶に残るメキシコ作品「カウンターアタック」はNetflixで配信中。アクション映画ファンはもちろん、緊張感あふれるドラマを求める視聴者にも、ぜひその目で確かめていただきたい。