「セレブリティ」より © 2023 Netflix, Inc.

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2023.7.17

インフルエンサーたちの世界と内幕を描いた韓国ドラマ「セレブリティ」:オンラインの森

いつでもどこでも映画が見られる動画配信サービス。便利だけれど、あまりにも作品数が多すぎて、どれを見たらいいか迷うばかり。目利きの映画ライターが、実り豊かな森の中からお薦めの作品を選びます。案内人は、須永貴子、村山章、大野友嘉子、梅山富美子の4人です。

大野友嘉子

大野友嘉子

インフルエンサーは現代版「アメリカン・ドリーム」の体現者なのか?
スマホ一つと才覚があれば誰もがセレブになれるSNS(ネット交流サービス)の世界と、才能と努力次第で誰もが出自に関係なく成功できると考えるアメリカン・ドリーム。フォロワー数が財力、権力になるインフルエンサーたちの世界を描いたドラマ「セレブリティ」には、こうしたアメリカン・ドリームを形作るエッセンスが凝縮されている。
 


単調な生活を送っていた主人公が学生時代の友人と再会することから始まる

 主人公の化粧品会社訪問販売員、ソ・アリ(パク・ギュヨン)は、流行に関心がなく、インスタグラムのアカウントすら持っていない。雑音をシャットアウトするかのように、淡々と仕事をこなす姿は彼女の心の強さの表れでもある。とはいえ、帰宅後に渋々同居する母親の話し相手になるなど、地味で単調な生活に少なからず不満を抱いている様子がうかがえる。
 
かつては裕福な家庭だったことが物語の冒頭で語られる。勉強ができたアリは、アイビー・リーグ(米国の名門大学群の総称)の一角エール大に留学するも、父親の事業失敗で中退。母親はそんな過去の栄華を忘れられず、無理をしてソウルの高級住宅地・江南にアリととどまっていた。
 
ある日、アリは同僚で友人のユン・ジョンソン(パク・イェニ)と仕事で出掛けたデパートで、高校時代の友人、オ・ミネ(チョン・ヒョソン)と再会する。ミネは有名インフルエンサーになっていた。セレブを前にはしゃぐジョンソン。一方のアリは驚きを隠せない。アリの知るミネは、アリにブランド物のバッグなどのお下がりをねだる、さえない少女だったからだ。
 
興味本位からアリはインスタでアカウントを開設する。ミネにフォローされたことで、フォロワー数は勝手に増えていく。インフルエンサーの影響力を知る。
 
アリ一家が没落したことを知らないミネは、アリをパーティーに誘う。セレブなインフルエンサーたちの集い「佳賓(カビン)会」のメンバーや、佳賓会の一人で生まれながらのセレブであるチン・チェヒ(ハン・ジェイン)、チェヒの義姉のユン・シヒョン(イ・チョンア)、財閥御曹司ハン・ジュンギョン(カン・ミンヒョク)らと知り合う。
 
そこでインフルエンサー同士のすったもんだに巻き込まれ、図らずして彼女らの間で有名になってしまう。佳賓会と比べて無名ながら堂々と振る舞うアリは、チェヒらに目を付けられる。
 
アリはアリで、彼女たちの無礼で傍若無人なふるまいへの怒りから、受けて立つことにする。彼女たちより大きな力を持つべく、セレブを利用するなどあの手この手を使って有名インフルエンサーを目指すのだった。
 

「エミリー・パリへ行く」より 

「セレブリティ」はアメリカン・ドリームを体現した「エミリー、パリへ行く」を思い起こさせる

 インフルエンサーを取り上げたドラマで思い浮かべるのは、2020年から配信がスタートした米国ドラマ「エミリー、パリへ行く」だ。シカゴのPR会社に勤めるエミリー・クーパー(リリー・コリンズ)が、マーケティング担当としてパリの子会社に赴任し、文化の違いに戸惑ったり、友情と恋愛のはざまで右往左往したりしながらも、いつも前向きにキャリアを積んでいく。
 
エミリーは、インスタを中心としたSNSを活用し、認知度向上やブランド力の強化などにつなげるデジタルマーケティングと呼ばれる手法で、顧客であるフランスのラグジュアリーブランドを売り出す。
 
エミリー自身もアカウントを持ち、パリでも生活を発信しまくる。華やかなパリの風景と、ウィットに富んだコメントがウケ、フォロワー数は増え続ける。ある日、ついにブリジット・マクロン(現大統領夫人)がエミリーの投稿をシェアしたことで、エミリーは一躍インフルエンサーの仲間入りをする。ここでも、リアルなセレブの名前にあやかって知名度を上げるやり方が出てくる。
 
配信が始まった頃、雑誌(電子版)「ザ・ニューヨーカー」のコラムが、同作を「現代のディストピアの産物」と評したのを覚えている。筆者のKyle Chayka氏は、「エミリーの仕事は、ブランドに対する『いいね!』を増やすこと。彼女の人生(の目的は)は自分自身にもっと『いいね!』をもらうことだ」と批判的に論じた。確かにその通りのドラマである。
 
「セレブリティ」が、エミリーのようにスマホに没頭する現代人を批判的に描き、SNSの見せかけの世界の裏を暴き、注目を浴びるための演出を空虚と切り捨てたことに対し、「エミリー~」はそうした事象をありのまま受け入れている。
 
「エミリー~」は配信当初、フランス人の描き方がステレオタイプだとか、「中身がない」だの批判が多かった。それが今やシーズン3を経て、シーズン4まで予定しているのはなぜか。
 
良く言えば、SNS中毒の現代人を反省させずに描く潔さが心地いいのだろう。だって、批判したところで、私たちはSNSがなかった時代の生活には戻れないのだから。悪く言えば「中身がない」ということになるのだが。
 
シーズン1でエミリーのライフスタイルを「ディストピア」のように感じた視聴者は、次第に慣れていく。注目を集めることに夢中なエミリーを受け入れる。それがこの作品のすごみだと思う。さすがアメリカン・ドリームの本場で作られたドラマだ。
 

なぜインフルエンサーになれたのか、を曖昧に映し出す

 その点、「セレブリティ」は説教っぽい。汗を流した「まっとうな」労働で得た成功譚(たん)ならまだしも、〝よく分からないことをしている〟新興勢力を認めないという古臭さがある。
 
アリ以外のインフルエンサーたちが軽薄短小に描かれているのは、やや短絡的だ。大衆を魅了する〝何か〟があるはずなのに、単にブランド物を身につけただけのセレブという金太郎あめ的なキャラクターばかりになっており、ドラマ全体に奥行きがない。
 
華やかな世界に飽き飽きしたアリは、インフルエンサーになるための〝裏技〟(有名人にあやかるなど)を暴露する。しかし、これもどこか腑(ふ)に落ちない。
 
芸が求められる芸能人は、厳しいトレーニングで習得した歌やダンス、演技力で人々を魅了する。もちろんブレークするためには、本人の雰囲気やプロデュースの仕方も大きい。それでも、芸という実体がある。
 
では、インフルエンサーがブレークする要因は? 先述したようにアリは裏技を公表するが、それだけではなれないことは、アリの名前を利用しようとした友人のジョンソンがインフルエンサーになれないことを見れば明らかだ。作中でアリのスタイルの良さや美貌が称賛されるが、全てのインフルエンサーがモデルのようとは限らない。
 
インフルエンサーをバックアップするコンサルタントは、アリに「あなたには競争力がある」と言うが、それ以上の説明はない。軽薄短小に見える他のインフルエンサーたちにも、競争力があったわけだが、こちらもよく分からない。インフルエンサーをインフルエンサーたらしめる具体的な要因が曖昧のまま、ドラマは終わる。
 
だけど、この曖昧さこそがインフルエンサーという実体のなさを象徴しているように思う。エミリーはパリに行き、ブリジット・マクロンに投稿をシェアされただけで有名になったのではない。フランスのファーストレディーを引きつける〝何か〟があったのだ。
 
Netflixシリーズ「セレブリティ」独占配信中
Netflixシリーズ「エミリー、パリへ行く」シーズン1~3独占配信中

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ライター
大野友嘉子

大野友嘉子

おおの・ゆかこ 毎日新聞くらし科学環境部記者。2009年に入社し、津支局や中部報道センターなどを経て現職。へそ曲がりな性格だと言われるが、「愛の不時着」とBTSにハマる。尊敬する人は太田光とキング牧師。ツイッター(@yukako_ohno)でたまにつぶやいている。
 

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