ジェントルメン © 2020 Coach Films UK Ltd. All Rights Reserved.

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2021.4.29

この1本:ジェントルメン クセある悪党入り乱れ

毎週公開される新作映画、どれを見るべきか? 見ざるべきか? 毎日新聞に執筆する記者、ライターが一刀両断。褒めてばかりではありません。時には愛あるダメ出しも。複数の筆者が、それぞれの視点から鋭く評します。筆者は、勝田友巳(勝)、高橋諭治(諭)、細谷美香(細)、鈴木隆(鈴)、山口久美子(久)、倉田陶子(倉)、渡辺浩(渡)、木村光則(光)、屋代尚則(屋)、坂本高志(坂)。

妻だったマドンナを起用した「流されて…」で大コケしたかと思えば、「シャーロック・ホームズ」は大当たりしてシリーズ化。当たり外れの差が大きいガイ・リッチー監督、今作は原点回帰。デビュー作「ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ」を思わせる、アクの強いクセ者が入り乱れる犯罪物語だ。

物語の中心にいるのは、英国の麻薬王ミッキー(マシュー・マコノヒー)だ。引退を考えて米国人マシュー(ジェレミー・ストロング)に商売を売り渡す交渉を始めると、ウワサを聞きつけた中国マフィアが横取りしようと割り込んでくる。金に困った貴族の土地を大麻の秘密農園にしているミッキーは、その一人から麻薬漬けの娘を取り戻せとの依頼に応じ、ロシアの裏社会から怒りを買う。さらに、ミッキーに恨みを持つ大衆紙編集長は探偵フレッチャー(ヒュー・グラント)を雇ってスキャンダルを探り、フレッチャーは手にしたネタで一もうけをたくらんだ。トラブルがトラブルを呼び状況が混迷してゆく。

物語は、ミッキーの右腕レイにネタを売ろうとするフレッチャーの語りで始まる。米国の貧しい家庭に育ったミッキーがオックスフォード大に入学して渡英したところから始める長広舌。しかも時々脱線するから、映画は冗舌でせわしない。複雑な筋立ては方々へ跳びはねて観客を幻惑するものの、振り落とされる寸前で本筋に戻るかじ取りが巧妙だ。緻密な構成と編集でテンポ良く運んで緩みがない。

ストーリーテリングの妙は米国のクエンティン・タランティーノばりだが、タランティーノのオレ様ぶりの代わりに英国風の気取りと階級意識で味付け。ご都合主義も味のうち。悪党たちの右往左往とだまし合いを、ゆったり楽しむべし。1時間53分。横浜ブルク13、奈良・TOHOシネマズ橿原ほかで5月7日から。(勝)

異論あり

母国・英国の犯罪ジャンルという〝懐かしい我が家〟に舞い戻ったリッチー監督、思う存分に得意技を詰め込んだ。裏社会のギャングや変人になりきった俳優たちの早口セリフの応酬、凝ったカメラワークと編集。全編がリッチー流の様式美で塗りたくられ、初期作品「ロック、ストック……」などのアップグレード版として楽しめる。しかし難点もある。キャラクターやプロットは〝作り物〟感が過剰で、笑いは誘うがヒリヒリするようなスリルは乏しい。ミステリー風に幕を開けるメタフィクショナルな話法も空回りしているのでは。(諭)

技あり

 アラン・スチュワート撮影監督は、リッチー監督のテンポの速さや細部へのこだわりを承知。ミッキーの妻ロザリンドの紹介カットは俗で面白い。大ロングから来た車が画面いっぱいで止まり、ピンヒールが車の整備工場に入る後ろ姿をステディカム(カメラ振動抑制機材)で追う。従業員に指示するショットで初めて顔を写す。最後は、ミッキーの部屋のドアにロザリンドが立つ。正面のバストショットから、部屋に入ろうとする動きでカメラが真逆になり、ドアを閉めるまでの動きをあらかた切る。リッチー監督の作風が手の内にある。(渡)