AMPTPとの交渉終了後、演説するSAG-AFTRAのフラン・ドレシャー代表=ロイター

AMPTPとの交渉終了後、演説するSAG-AFTRAのフラン・ドレシャー代表=ロイター

2023.7.30

収束見えぬハリウッドのスト「追加報酬、AI規制」求め 日本の映画界では?

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勝田友巳

勝田友巳

ハリウッドを揺るがしている「米脚本家組合(WGA)」と「米映画俳優組合(SAG-AFTRA)」の大規模ストライキは、収拾の見通しがつかないまま長期化の様相を呈している。ストの余波は日本にも及び、来日キャンペーンが中止となり、今後の公開スケジュールにも影響を与えそうだ。映画の技術革新と環境の変化が引き金となった今回のストライキ。いったい誰と何を争っているのか。日本でもストライキになるのか。


デモ行進するSAG-AFTRAのフラン・ドレシャー代表ら=ロイター

トム・クルーズもマーゴット・ロビーも来日中止

ストライキが始まったのは、5月2日午前0時。テレビや映画の脚本家1万5000人が所属するWGAと、ワーナー・ブラザースやディズニーなどの大手映画スタジオ、Netflixなど動画配信会社で作る「米映画テレビ製作者協会(AMPTP)」の、6週間にわたる交渉が決裂。日付が変わると同時にストに突入した。ただちに米国内外の映像産業関係者が支援を表明、各地でデモなどの示威活動を行いながら交渉を求めている。
 
一方、映画、テレビ、ラジオの俳優や番組司会者など16万人が加盟するSAG-AFTRAも、7月の契約更改を前にWGAと同様の争点を掲げてAMTPTと交渉。妥結に至らないまま期限切れを迎え、同月14日、WGAに合流する形でストに突入した。これによりすべての撮影がストップ。公開前の宣伝活動も行われなくなり、日本での公開直前に予定されていた、「ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE」のトム・クルーズや「バービー」のマーゴット・ロビーらの来日も中止となった。


Netflixの前でデモ行進するSAG-AFTRAの組合=ロイター

強い力持ちスタジオと対等の組合

脚本家や俳優のストライキと聞いても日本ではピンと来ないが、米国ではWGAやSAG-AFTRAなど職能組合が結成されていて、AMPTPが製作する作品には、組合員しか参加できない。組合はAMPTPと待遇や労働条件などを詳細に取り決めた契約を結び、これが強い拘束力を持つ。
 
契約更改時の交渉で、最低賃金やDVDなどのソフト化や配信サービスへの提供など2次利用の追加報酬などが話し合われるわけだ。生活がかかるから、真剣勝負。とはいえ、製作が止まれば組合員にも死活問題で、たいていは双方が歩み寄って妥結する。
 
WGAのストは15年ぶり、俳優組合との同時ストは1960年以来だ。ちなみに当時の争点は、映画のテレビ放送時の追加報酬だった。63年ぶりの混乱の背景には、コロナ禍の間に動画配信サービスが一気に普及したことと、人工知能(AI)の急速な進化が重なった時流があるようだ。この間の物価高騰も影響し、厳しい駆け引きとなっている。


SAG-AFTRAのストライキバナー=httpswww.sagaftra.orgfilesprofile-squareSA-OnSTRIKE23_v1
 

「視聴回数に応じて追加報酬を」

WGAとSAG-AFTRAは、物価上昇に見合った報酬の増額▽動画配信作品の報酬体系見直し▽AI技術導入の制限――などを要求している。WGAによれば、配信作品の脚本の作り方は従来の映画やテレビ放送、ケーブル作品と異なるし、再放送やパッケージ化などの2次利用もない。コロナ禍で大手スタジオも配信重視にかじを切ったことから、大幅な増額を求めている。
 
例えば配信サービス作品の、海外での再放送脚本料について。WGAは契約者数が45万人以上75万人未満は100%、75万人以上は150%の増額を要求。これに対しAMPTPの回答は、45万人以上一律60%の増額。またWGAが求めた視聴回数に応じた報酬の算定方法新設を、AMPTPは拒否。配信サービスは視聴数の公開すら応じておらず、主張の隔たりは大きい。
 
SAG-AFTRAの主張からは、AI導入への警戒心がうかがえる。組合側は、〝デジタルレプリカ〟を作成したりAIによって演技が修正されたりする際には、十分な説明と補償が必要だとする。一方AMPTPは、エキストラについては半日分の賃金でデータを収集し、以降は際限なくイメージを使用できること、主要出演者のセリフや演技を本人の許諾なしに改変可とすることを提示。双方の主張はかけ離れ、妥協点を見つけるには時間がかかりそうだ。ストライキによる損失額は40億ドルに及ぶとの試算もある。

考えにくい日本でのストライキ

さて、多大な損失と混乱をもたらすハリウッドのストライキは一方で、労働者が正当な対価を求めて資本家と交渉する権利を行使し要求を勝ち取るという点では、健全な労使関係の反映とも言える。日本でも、動画配信サービスの急速な普及やAIの発展は同じはず。ストライキに発展するのだろうか。
 
結論から言ってしまえば、その可能性はほぼ、ない。日本の俳優約2600人が加入している「日本俳優連合(日俳連)」の池水通洋代表理事は、「日本とハリウッドでは俳優の位置づけが全く違う」と話す。「ハリウッドでは俳優が地位と報酬を守るために団結し、製作者と対等の立場に立っているのに対し、日本は組織率も低く、交渉の場もない」と解説する。


「全米映画俳優組合のストライキ」と書かれたボードを掲げ、デモに参加する俳優たち=ニューヨークで、八田浩輔撮影

フリーランスで団結力なく

日本では、俳優はフリーランスの「個人事業者」とされる。撮影時は労働者として雇用者の指揮監督下に入るのではなく、業務委託を受け自由度の高い働き方で、作品完成のために働くとみなされるのだ。日俳連も労働・雇用条件の改善を図る労働組合ではなく、組合員の相互利益増進を目的とする協同組合だ。日本では、出演に際して契約を交わす習慣も根付いていない。
 
日俳連の主張を、池水代表理事はこう語る。「俳優たちは個人事業主に分類されてはいるが、働き方は制作会社の指揮命令下にある労働者であり、そこでは雇用隠し、労働隠しが公然と行われている。団体交渉権を生かして、NHKとは出演条件の改善交渉を定期的に行っているが、映画については交渉の場が作られていない」


1978年の日俳連のストライキには野沢那智(前列左)、田の中勇(同右)ら一線の声優が参加した=日俳連提供
 

声優の権利 ストで獲得した1970年代

ただ日俳連は日本音声製作者連盟との間で「外画動画出演実務運用表」を締結し、アニメーションや外国映画の吹き替え版の声の出演について、最低出演料や再放送時の追加報酬などを定めている。運用表は73年8月、日俳連の声優約200人が「24時間収録拒否」を掲げてストライキを断行。製作側が譲歩した結果だ。この交渉で、平均報酬が3.14倍へと大幅増額する成果も勝ち取った。運用表は改定を重ね、現在も効力を発揮する。池水代表理事は「声優という職業が新しかった時代、一体となって交渉できた」と振り返る。
 
テレビドラマなどの出演については、著作権法に基づく規定や各放送局との間の協約で再放送時の追加報酬などを定めているが、放送を取り巻く環境の変化でなし崩しになっている部分もあるという。映画に至っては撮影時の報酬のみで、ソフト化や配信開始時などの追加報酬規定はない。最低賃金の保証もなく、個別の契約で追加報酬を受け取る俳優も「ほとんどいないだろう」と池水代表理事。「今となっては団体交渉による根本的な改善は難しく、法の整備が必要だ」と訴える。

声優の権利を求める日俳連の集会=1978年、日俳連提供

欧米から40年遅れ

俳優ら実演者の環境改善を目指す、日本芸能従事者協会の森崎めぐみ代表理事は「日本の俳優はフリーランスで、法律も未熟。圧倒的に立場が弱い」と話す。芸能事務所に守られている一方で、契約条件が不利な場合もある。「仕事がなくなるのではという不安もあり、声を上げにくいのが実情だ」と明かす。
 
近年ようやく、撮影中の事故に労災が認められるようになったが、通常は雇用者が負担する労災保険は全額加入者負担だ。同協会は会員らに行ったアンケート結果などを元に関係省庁に働きかけ、地位向上に取り組んでいる。森崎代表理事は「日本は欧米から40年遅れ」と自嘲するが、「声を上げ続けなければ永遠に変わらない」と粘り強く取り組む考えだ。


1948年の東宝争議で、東宝砧撮影所に立てこもった組合を排除するため戦車が出動した

戦う映画人 今は昔

かつて、日本の映画界も労働争議が活発だった時代があった。特に、終戦直後は映画会社の労働組合が先鋭的で、撮影所でしばしばストライキが行われた。中でも48年の東宝争議では、民主化と人員整理反対を掲げる組合に経営側が強硬姿勢で臨み、両者が激突。同年8月、撮影所を封鎖して籠城(ろうじょう)した組合側を、日本を占領していた連合国軍が出動して解散させた。「来なかったのは軍艦だけ」と語り継がれるほどの大争議だった。
 
それももはや、歴史の1ページ。それでも現状に異を唱える若手俳優が現れているし、映画界の働き方改革も具体化してきた。映画ファンとしてはより良い作品が生まれる土壌が整うことを願うばかりなのだが。

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ライター
勝田友巳

勝田友巳

かつた・ともみ ひとシネマ編集長、毎日新聞学芸部専門記者。1965年生まれ。90年毎日新聞入社。学芸部で映画を担当し、毎日新聞で「シネマの週末」「映画のミカタ」、週刊エコノミストで「アートな時間」などを執筆。

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